“良い企業”に勤めていても
なぜうつになってしまうのか

 うつになりやすい職場とは、どのような職場だろうか。職種による違いは確かに見られる。でも、その職種についたから、もしくは、ブラック企業と言われるような企業に勤めたからといって、みんながみんな、うつになるわけではない。

 うつ症状を抱えるクライアントとして実際接する機会が多かったのは、“一般的に良いとされている企業”の方だった。わかりやすくいうと、この企業に就職したら親が喜ぶだろうな、と大抵の人が思うようなメジャーな企業にお勤めの方だ。

 当たり前のように高い成果が要求され、仕事は山積みで納期にゆとりがない。休日出勤や長期残業が状態化している。確かに、うつ症状を引きおこしやすい環境かもしれない。でも、このような環境は、おそらく、入社してからずっと変わりがなかったはずだ。それがある日、心身の健康状態に何かしら以前と違う違和感を覚えるようになる。

 そこには、「部署移動になる」「上司または部下が大きく変わる」「ポジションが変わる」などの外的要素に加え、それが自分に合っていない、やりがいを感じない、などの心的要素が絡まった時であることが多くみられた。

 たとえば、優秀なプレゼン資料を作るが、そもそもひとり作業を好む人がいたとする。その人が突然、人とのコミュニケーションを必要とされる営業本部長に抜擢されたとしたらストレスは当然かかるだろう。逆に人と話すのが好きで、自社製品についての説明に長けていた人が、ある日突然、開発業務に就いたら、それはそれでストレスだろう。また、体力に自信がない人が夜間シフトを頻繁に組まれるようになったら、心身の健やかさを失っていくのは目に見えている。

 だからといって、これまで、それなりの成果をあげてきた人が、急にやる気を放り出して手を抜けるわけはない。でも、モチベーションと比例するように効率は落ち、会社で過ごす時間が多くなるほどに、ストレスを発散する時間は限られてくる。そのような時間が慢性化すれば「よく眠れない」「朝なかなか起きられない」「会社に行くのが億劫になる」「朝、電車に乗ることに抵抗感を感じる」「以前と同じスペードで仕事が片づけられない」などの変化が生まれても仕方がない。