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シリコンバレーで考える 安藤茂彌

赤字でも億単位のボーナスを支払い続けた米銀の腐った資本主義

安藤茂彌 [トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学特任教授]
【第16回】 2009年3月9日
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 筆者は銀行員であった頃に、香港でシンジケートローンを組成する仕事に携わっていた。シンジケートローンは、複数の銀行が共同して単一の借入人に長期資金を貸し出すローンである。通常、大きな金額を貸し出すときにこの形態を取る。例えば、1000億円のローンを貸し出すときに、一行で貸し出すとリスクがあまりにも大きいので、銀行が10行集まってそれぞれ100億円貸し出すのである。

 このときにローンの取りまとめをする銀行が必要になる。香港では米国の大銀行がこの役割をすることが多かった。当時、米銀の信用力がずば抜けて高かったし、通貨も米ドル建てで、契約書も英語であったので、米国の銀行が主幹事になってシンジケートすることが多かった。主幹事銀行でシンジケーションのとりまとめをする人をジンジケーション・マネジャーと呼んでいた。

 シティグループ、バンク・オブ・アメリカにはアメリカのビジネススクールを卒業したやり手のジンジケーション・マネジャーがいた。主幹事の銀行であれば、他の銀行とは比べ物にならないほど大きな手数料収入が入る。一件のシンジケートローンを成功裡に完成させると大きなボーナスが支払われる。そのために、彼らは我々日本人の銀行員とは比べ物にならないほどの給料を取っていた。収入の桁が我々とは最低一桁、時には二桁違うのである。

 ローンの貸出先が政府、政府機関であればリスクはそれなりに把握できるが、貸出先が私企業となると信用リスクの判定は難しくなる。貸し出し先の信用に頼らないプロジェクトファイナンスとなると、様々なリスクが混在するのでリスク判定はさらに難しくなる。だが主幹事の米銀が持ち込んでくる案件の説明書にはバラ色の内容しか書いてない。参加する銀行は独自に情報を集め、参加するか否かの決断をするが、時間は限られている。

 「米銀が組成して米銀自体もリスクを取っているのだから大丈夫だろう」と安易な判断を下すとひどい目にあう。まもなく不良資産になるのである。やり手のシンジケーション・マネジャーがほかの米銀に引っこ抜かれて転職した後には、彼の組成したローンに安易に参加した銀行には不良債権の山ができる。だが、当のシンジケーション・マネジャーは既に億単位あるいは10億単位のボーナスをもらって、姿を消している。

 そして今、シティグループとバンク・オブ・アメリカが厳しい状況に直面している。両行が窮地に追い込まれているのは、こうした報酬システムを許してきたからではないだろうか。一部の社員に高給を払って業績拡大指向で経営し、リスク管理が疎かになっていたのではないだろうか。

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安藤茂彌 [トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学特任教授]

1945年東京生まれ。東京大学法学部卒業後、三菱銀行入行。マサチューセッツ工科大学経営学大学院修士号取得。96年、横浜支店長を最後に同行を退職し渡米。シリコンバレーにてトランス・パシフィック・ベンチャーズ社を設立。米国ベンチャービジネスの最新情報を日本企業に提供するサービス「VentureAccess」を行っている。VentureAccessホームページ


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シリコンバレーで日本企業向けに米国ハイテクベンチャー情報を提供するビジネスを行なう日々の中で、「日本の変革」「アメリカ文化」など幅広いテーマについて考察する。

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