日本の産業界に「多様性」(ダイバーシティ)という概念が輸入されて久しいが、文化的な背景の違いもあり、なかなか米国と同じようにはいかない。日本では政府が主導して女性管理職の登用を義務付ける動きが出てきたが、数値目標を掲げられていることで、多くの大企業が頭を抱えている。この分野で世界の先頭集団に入り、「多様性」に加えて「受容性」(インクルーシブネス)も重視することで異彩を放つ大手会計事務所、英EY(アーンスト&ヤング)の上級経営幹部に話を聞いた。(聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)

――現在、日本では政府の方針として、「(東京オリンピック・パラリンピックが開催される)2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする」という目標を掲げています。さらに、これを義務化しようという動きもありますが、政府の方針ゆえに大企業は無視できず、「2020年までにどのようにして女性管理職の数を増やすか」について、頭を抱えています。政府が数値目標を設定することの是非はともかく、ベスさんは一連の動きをどう見ていますか。

CEOのコミットなくして「多様性」は実現しない<br />――ベス・ブルック‐マチニアック(EYグローバル・バイスチェア)に聞くベス・ブルック‐マチニアック(Beth Brooke-Marciniak)/1959年、米インディアナ州インディアナポリス生まれ。パデュー大学を卒業後、英アーンスト&ヤング(EY)に入社。主に、監査部門および税務部門でキャリアを積む。現在、EYのグローバル会長兼CEOを補佐するバイスチェア(副会長)の1人として、全世界を対象とする公共政策関連のビジネスを統括する。
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 EYでは、かつてレポートを発表したことがありますが、女性幹部を増やすためには、乗り越えるべき3つの“壁”が存在しています。

 まず、政府の方針の下に、その声を利用する必要があります。そして、民間企業が実際にアクションを取ります。さらに、誰が見ても分かるように透明性を高めていかかなくてはなりません。

 日本の安倍晋三首相が30%という高い目標を掲げて、この問題について発言を続けていること自体はよいことだと思います。1つ目の壁はクリアしているわけですが、現実的には「女性幹部を増やすためにはどういうパイプラインを設計するか」(どうやって育成していくか)という問題がありますので、わずか1%だったものが、一夜にして30%に急増するということはないでしょう。

 それでも、「女性の活用」を掲げる第二次安倍内閣には、過去最多となる5人の女性閣僚が誕生しました。実際に、そういうアクションを取っていることが重要なのです。これは、ビジネスに例えると、「いつまでに売り上げをいくらにする」という目標を設定することと同じだと言えます。

――しかしながら、日本の産業界には「政府が目標を設定すること自体がおかしい」「すべての女性が出世してバリバリ働くことを望んでいるわけではない」などの声があり、単純に女性管理職の数だけ増やせば解決するものではないという考え方があります。ベスさんは、男性的な価値観が中心の米ビジネス界で成功した女性エグゼクティブの1人ですが、米国での状況はどうですか。

 すべての女性が出世を望んでいるわけではないというのは、確かにその通りかもしれません。ですが、その一方で、仕事をするということに対して、旺盛な意欲を持っている女性が存在することもまた厳然たる事実なのです。

 大切なのは、どこの企業にもいる意欲を持っている女性に「機会を与える」ことがポイントで、企業はそういう女性たちが働きやすい環境を整えてあげる必要があります。例えば、子育てのケアなどがありますが、社内に昇進・昇格の機会があるのとないのとでは大違いです。意欲のある女性が周囲から偏見の目で見られることなく、存分に能力を発揮して成果を上げるためにはどのような働き方にすればよいか。実際には、さまざまな方策が考えられるはずです。