「暴力団を街から追い出せ!」 住民たちが自ら闘わざるをえなかった「暴対法」の壁
九州最大規模の暴力団「道仁会」。その拠点には九州各地から構成員が集まるという

 取材班は抗争を続ける暴力団の事務所に向かった。福岡県久留米市に拠点を置く、九州最大規模の暴力団「道仁会」だ。「いつまで抗争は続くのか?」われわれの質問に、幹部が答えた。

 「それは私たちにもわからない。しかし自分たちの所は守るという意識は持っているのではないですか、どこの組織も」

 全国最多の指定暴力団5団体をかかえる福岡県。発砲件数は5年連続ワーストワン。その要因の1つが、「道仁会」と「九州誠道会」の抗争だ。3年前、内部分裂した道仁会と九州誠道会の抗争が勃発し、住宅街で発砲事件が多発。抗争は手榴弾や軍用銃までが使用される事態に発展した。ついに佐賀県武雄市で、病院に入院していた患者が、九州誠道会の関係者と間違えられ殺害されるという事件まで起こった。

自ら立ち上がった住民たち

「暴力団を街から追い出せ!」 住民たちが自ら闘わざるをえなかった「暴対法」の壁
住民たちが結束し、デモ行進を行なっている様子

 「もう暴力団を街から追い出すしかない」

 地元に暴力団事務所を抱える住民たちが立ち上がり、追放に向けて闘いを始めた。

 しかし、相手は暴力団。なぜ住民が自ら闘わなければならないのか。取材班は、道仁会の追い出しを目指す住民たちに尋ねた。

 「行政や警察では暴力団を追い出すには限界がある。だから、われわれ住民がやるしかないとなったんです」

 住民の中心メンバーが明かした意外な事実。警察は暴力団員を個別の事件で逮捕できても、事務所そのものを追い出す権限はない。行政も住民の相談に乗ったり、暴追運動の資金援助は出来ても、事務所を退去させることは出来ないというのだ。

 住民たちが武器としたのは「人格権」。憲法にある平穏な生活を営む権利を侵害されたとして、暴力団事務所の使用禁止を裁判所に訴えるという手法だ。道仁会の拠点を中心に、半径500mに暮らす住民およそ600人が原告となって、事務所を使用禁止にするよう裁判所に求めていた。

 しかし、道仁会は思わぬ反論に出た。「ここは“暴力団事務所”ではなく、個人の“自宅”だ」というのだ。

 住民たちは道仁会の主張をくつがえし、“事務所”だと証明するため、半年にわたって建物の監視を続けた。通行人を装い、建物を出入りする男たちの人数や乗り付けられた車の数を記録。九州各地から暴力団員が集まり、定期的に会合が行なわれていることを突き止め、裁判所に提出した。

 そして今年3月、裁判所は「暴力団事務所である」と認定。今後も発砲が予想されるとして、建物の使用を禁止する決定を出した。

 道仁会は出て行くのか? 取材班は建物を見張り、その動きを追った。建物にトラックが乗り付けられ次々と荷物が運び出され始めた。すると突然、撮影をしていたわれわれ取材班のもとに、道仁会の幹部が近づいて来た。

 「あんたたち見ていけばいい、せっかく来ているなら。自分たちの目で」