イタリア企業の95%は従業員9人以下
組織は個人の人生のためにある

 イタリアには、プロジェティスタという職種・働き方があって、皆生き生きとしている。プロジェティスタとは、プロジェクトマネジメントを職務とするイタリアに見られる独立したプロフェッショナルたちのことである。

 イタリアの産業には、2つの大きな特徴がある。1つは全雇用者の4分の1が自営業者という点。つまり、同族経営が非常に多い。そのため、イタリアでは企業の大半が中小零細企業である。少し古い数字なのだが、95%以上が従業員9人以下の会社であり、従業員50人以上の企業は全企業の1%にすぎないそうだ(イタリア国立統計研究所ISTAT[2010年]のデータより)。

 もう1つの特徴は、産業のクラスター化である。特定分野に関係する同等規模の零細企業群が同じ地域に集積して、緊密なネットワークを形成しているのだ。その結果、多種多様な地域的産業集積が生まれ育っている。

 中小零細企業が多いので、イタリア企業は従業員数が少ない。そのため技術者は社内、社外を問わずにネットワークを生かして人材不足を補完している。それこそプロジェクトごとにネットワークを活かして人材や資材を調達、新たなチームを造る。

 そもそも彼らは独立心が旺盛なので、たとえば、そこで開発された機械に対する注文が増えると、それでスピンオフして会社を作ってしまうこともあるほどだ。

 イタリア人の郷土に対する思い入れは非常に強い。多くの人間は生まれた土地を離れたがらない。「マンマのパスタが食べられる距離」という言葉があるが、これは比喩ではなく、本当に皆が持っている感情なのだ。

 だから地域ごとにクラスターが築かれ、関連する産業、職種の間で稠密な人間関係が築かれる傾向が強い。強い土着志向のことを「カンパリズモ」と言うのだが、このカンパリズモの精神が、産業集積のベースにある。

 つまり、彼らにとって企業とか組織というものは、目的ではなく、あくまでも手段なのだ。よりよく生きるための手段だから、組織のために個人がいるなどという考えはほとんど見られない。だから、人間中心の企業経営が当たり前になる。皆が、サッカーで言うところのファンタジスタであろうとし、自由に働ける環境を大切にする。上下関係よりも横のネットワークを大切にする。

 イタリアの大企業の多くは、従業員300人規模だ。そこからしきりと暖簾分けが行われる。産業集積もその結果起こるのだが、だから、大企業と零細企業の間もネットワークであって、下請けなどという感覚は乏しい。