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かの残響、清冽なり――本田美奈子.と日本のポピュラー音楽史

元「モーニング娘。」安倍なつみが
クラシカルで甘美なソプラノ曲を歌うまで

坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]
【第63回】 2014年10月31日
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毎年11月3日に「LIVE FOR LIFE音楽彩~本田美奈子.メモリアル」と題された追悼演奏会が日本橋三井ホールで開かれている。今年も11月3日に幕を開ける。十数人の歌手が本田美奈子にちなんだ曲を中心に3時間半にわたって歌う。曲目は彼女のポップスとミュージカル・ナンバーが多い。この「音楽彩」へ昨年に続いて今年も、安倍なつみが出演する。「モーニング娘。」の一員として1998年にデビューし、2004年にソロのポップス・シンガーとなった。その後は多くのミュージカルに出演し、飛躍的に歌唱技術を向上させていた。(文中敬称略)

「本田美奈子.メモリアル」演奏会で披露

 昨年の「音楽彩」では「私だけに」と「オン・マイ・オウン」を歌った。「私だけに」はミュージカル「エリザベート」、「オン・マイ・オウン」は「レ・ミゼラブル」の有名なナンバーだ。後者は本田美奈子が帝劇などで歌い、没後の追悼アルバム「心を込めて…」(日本コロムビア、2006)にスタジオ録音が収録されている。「レ・ミゼラブル」で少女エポニーヌがかなえられぬ愛を歌い上げる名曲だ。

弦のアンサンブルで歌う安倍なつみ(2014年9月18日サントリーホール・ブルーローズ、写真:日本コロムビア)

 昨年11月3日に日本橋三井ホールで安倍なつみが歌ったこの2曲を日本コロムビアのプロデューサー岡野博行が聴いていた。彼は本田美奈子をクラシカル・クロスオーバーのアルバム制作へ導き、「AVE MARIA」(2003)と「時」(2004)を制作した。もちろん「音楽彩」は毎年聴いている。2002年8月に初めて本田の演奏会を聴き、楽屋でクラシック・アルバムの制作を持ちかけたときのことを思い出したかもしれない。あれから12年経っている。

 「モーニング娘。」の「LOVEマシーン」(2000)は日本に住んでいればだれでも知っている大ヒット曲だったが、ソロに転じた後の安倍なつみの作品はファン以外、あまり知られていない。しかし、ミュージカルではかなりの大作へプリンシパル(主役級)として出演している。ポップスの歌手がミュージカルへの挑戦で技術を向上させ、音域も広がり、表現力を増したところは本田美奈子や知念里奈を彷彿とさせる。

 岡野は安倍の歌う2曲を聴いてこう感じたそうだ。

 「高音の裏声がじつにきれいでした。表現は素直でストレート、自分を飾ろうとするところがまったくありません。独特の細かいビブラートも魅力的で、まさに、ずっと探していたクラシカル・クロスオーバーの世界で活躍できる歌手だと思いました。後日、事務所に連絡し、アルバム制作へのオファーを出しました」(岡野博行)

 安倍なつみはソロ10周年をむかえて、「新しい挑戦をしたい」と考えていたのだそうだ。ステージのMCで何度も話している。ちょうどそこに岡野から話をもちかけられて、「驚きと感動で夢のようです」とも語っている。

 そして1年、安倍なつみの新しいアルバム「光へ-classical & crossover」(日本コロムビア、2014)が10月22日に発売された。12曲収録されている。クラシックの声楽曲はなく、ミュージカル・ナンバーとスタンダードが大半を占める。最初からクラシックをかなり組み入れた本田美奈子とアプローチが違うようだ。

 「候補曲を30ほど選んで渡しました。安倍さんと話しながら20に絞り、スタジオでテストしながら12曲を選んだのです。クラシカルと言っても、決して近寄りがたいものではなく、安倍さんの持つ、聴き手に寄り添うような世界観を目指しました。非常に勘がよく、録音は速く進みました。1日に3曲収録した日もあります。オリジナル作品も1曲入れました」(岡野博行)。

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坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]

1954年生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、ダイヤモンド社入社。「週刊ダイヤモンド」編集長などを経て現職。著書に『複雑系の選択』『めちゃくちゃわかるよ!経済学』(ダイヤモンド社)『浦安図書館を支える人びと』(日本図書館協会)など。


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日本のポピュラー音楽の誕生をレコード産業の創始と同時だと考えると、1910年代にさかのぼる。この連載では、日本の音楽史100年を、たった20年の間に多様なポピュラー音楽の稜線を駆け抜けた本田美奈子さんの音楽家人生を軸にしてたどっていく。

「かの残響、清冽なり――本田美奈子.と日本のポピュラー音楽史」

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