多くの企業が売上げ不振に悩む中、近年、注目されているマーケティング手法がある。『コーズ・リレーテッド・マーケティング』(以下、コーズ・マーケティング)である。

 これは、企業の事業活動によって得た利益の一部をNGOなどの組織に寄附することで、社会問題の解決に貢献し、しかも商品の売上げや企業価値を上げる手法である。

 欧米では盛んに行なわれているが、寄附の文化がないといわれるこの日本では、これまであまり活用されてこなかった。しかし最近では、めざましい成功を収めるプロジェクトやプログラムが続出し、注目を集めている。今回はいくつかの成功事例を紹介しながら、このマーケティングの本質に迫ってみたい。

日本でも成功事例が続々。
その成功の秘密は?

売上げよりも、“ミッション”ありき。それでも売れている「チャリティ商品」の秘密
今年で3年目を迎えた、ボルヴィックの「1L for 10L」プログラム。ユニセフを通じて、アフリカ・マリ共和国に清潔で安全な水を確保する井戸が建設される。

 日本で最も知られた『コーズ・マーケティング』の成功事例といえば、ボルヴィックの「1L for 10L」プログラムだろう。さほど社会貢献に関心の無い人でも、「ボルヴィックを1L買うと10Lのキレイな水がアフリカに提供される」という仕組みくらいはご存じかと思う。

 ボルヴィックを日本で取り扱うダノンウォーターズオブジャパン(以下ダノン)がこのプログラムを開始したのは2007年の7月。同年9月までの3ヵ月間、展開されたが、対前年比31%も売上げがアップ。翌2008年もプログラム期間を6月から10月までの5ヵ月間に延長して継続し、さらに11%の売上げ増を実現。7-9月だけで比較すると、2年間で51%も売上げを伸ばした。

 アメリカン・エキスプレス(以下、アメックス)は、昨年末、チャリティ・キャンペーンを実施。提携店舗で買い物をし、アメックスのカードで支払いをすると、カード利用1回につき100円が医療支援NGO「世界の医療団」に寄附されるという仕組み。リーマン・ショック直後の世界的な経済危機の中にもかかわらず、店舗によっては対前年比で30%以上の売り上げ増を達成。また、店舗で買い物をした利用者数は、20代の会員に限れば約60%増という驚異的なパフォーマンスを叩き出している。

 王子ネピアは、昨年7月から10月まで「千のトイレプロジェクト」を実施。ネピア製品を買うとその一部がユニセフに寄附され、東ティモールの学校や村に清潔なトイレが建設され、さらに衛生教育も行なわれるというプロジェクトだ。この時期、原油高や原料高の影響でティシュやトイレットパーパーが各社一斉に値上げしたという逆風の中、同業他社が大きく売上げを減らした一方、ネピアは消費者からの共感を得て、売上げが大幅に落ちることはなかったという。

売上げよりも、“ミッション”ありき。それでも売れている「チャリティ商品」の秘密
創業125周年を記念して作られた、ブルガリのチャリティ・リング。39900円のうち7600円が、「セーブ・ザ・チルドレン」に寄附されるという仕組み。

 ブルガリは創業125周年を迎えた今年、世界の子ども支援のNGO「セーブ・ザ・チルドレン」が行なう「Rewrite the Future~いっしょに描こう!子どもの未来~」キャンペーンをサポート。キャンペーンのために特別に製作されたチャリティ・リングなどを購入すると、売上げの一部(39900円のうち7600円)が世界の子どもたちを支援するNGO「セーブ・ザ・チルドレン」に寄附され、紛争地域に住む800万人の子どもたちに教育の機会を提供する活動に役立てられる。高級ブランド市場が大幅に縮小する中、今年末までに1千万ユーロ(約13億円、2009年7月30日時点)の寄附を目標として、全世界で展開している。