みなさん、「労働安全衛生法」という法律をご存知でしょうか? これは、労働者の働く環境を守るために1972年に制定された法律です。

 その法律に、1988年、働く人のココロのケアに関する項目が初めて加わりました。このとき国は、体のケアだけでなく、産業医に心理相談員や栄養・運動のスペシャリストも加えて、ココロの面からもケアをしなさいという指針「トータルヘルスプロモーション」を出しました。

 具体的には、

(1)ストレスに気づくよう会社がサポートする

(2)リラックスするための方法を指導する

(3)職場の雰囲気をよくして、悩みを相談しやすい環境をつくる

 というものでした。それまでは、職場での危険や不衛生な部分を取り除くことがメインでした。それを、ココロの健康管理を含め、より快適な職場にしようというのです。

法律はできたけれど……

 ところが、これを実践した企業はほとんどありませんでした。なにせ当時の日本はバブル経済のまっただ中。会社も、そして働く人自身も、前に進むことに一生懸命で、ココロになど構っているヒマなどなかったのです。

 すると、1992年、労働安全衛生法に新たな指針が加わりました。それは、会社に対して、快適な職場づくりにもっと力を入れるよう強く求めるものでした。

 働く人のココロのケアに、国が本腰を入れ始めたのは、日本の経済情勢の変化がありました。

 90年代前半といえば、バブル経済が崩壊して失業率が高まり始めたころ。それに伴って、自殺者の数も増えていきました。

 そんな情勢に危機感をおぼえた国が、急いで法律を改正したと言ってもいいでしょう。

 これによって、働く人はココロのケアを受ける権利を認められ、会社側はその機会を提供するよう指示されました。職場の環境や仕事の進め方をチェックして、問題があれば改善することや、休憩室や健康相談室を設けるよう努力しなければならないと決められたのです(努力義務規定)。