「GBUS騒動」は、米国の近年の所得格差問題を最も象徴しているといえるだろう。

米サンフランシスコの住宅街を走るグーグルの社員専用シャトルバス
Photo by Izuru Kato

 先日の出張時、朝7~9時ごろにサンフランシスコの住宅街にある大通りに立ってみた。すると、真っ白い2階建てバスが走っていくのを頻繁に見かけた。10~15分に1度は通り過ぎる。スモークガラスだが、中で乗客が広いテーブルの上にパソコンを開いて作業しているのがうっすら見える。

 正面上部の電光掲示板に「GBUS to MTV」と表示してある。シリコンバレーのマウンテンビュー(MTV)にあるグーグル本社へ向かう社員専用シャトルバスだ。

 高額所得をもらう最近の若いハイテク技術者たちは、シリコンバレー近郊のプール付き豪邸を買うよりも、サンフランシスコ市内に住んで夜はしゃれたレストランやバーでくつろぐのを好む。ただし、同市からシリコンバレーまでは車で50分程度かかる。彼らは合理的なので、高級車を運転して通勤するのではなく会社の無料バスに乗る。それは快適な作りで無線通信のWi-Fiを完備しているため、バスに乗った瞬間から仕事を始めることができる。

 グーグルだけでなく、アップル、フェイスブック、ヤフー、eBayなど他の大手ハイテク企業も人材確保のために同様の無料バスサービスを社員に提供している。そのため、サンフランシスコ市内の朝の通勤時間帯は2階建て高級大型バスが続々と走っていく。ある大手ハイテク企業はバスを約150台運行させているという。

 近年、大手ハイテク企業がこういった通勤バスの新たなルートを設定すると、その停留所近辺の住宅価格が突然高騰するという現象が顕著となっている。ハイテク技術者が購入するからだ。

 賃貸契約の法律がオーナーに有利な方向で改正されたことと、そうした家賃の高騰が相まって、あちこちで低中所得層の賃借人が退居せざるを得なくなっている。代わりに、豪華にリノベーションされた部屋にハイテク技術者が入居するというケースが相次いでいる。