「正社員とは言っても、職場を転々とするためスキルアップできない。いつ失業するかわからない不安すらある」

 ある派遣会社の正社員、竹村広志(仮名・29歳)はため息をつく。

 現在、派遣社員をはじめとする若年層の非正規社員が急増し、労働格差が社会問題化している。しかし、正社員だからと言って「勝ち組」とは限らない。雇用環境が激変した昨今、正社員とはいえ、厳しいノルマ、超長時間労働、サービス残業、低賃金など、労働環境が非正規社員とさほど変わらない「名ばかり正社員」が急増しているのだ。

 それは一般企業ばかりではない。実は、非正規社員を企業に紹介する立場の派遣会社でも、「名ばかり正社員」が急増しているのをご存知だろうか。彼らの労働環境は、派遣社員に負けず劣らず不安に満ちている。その生々しい「実態」に迫ってみよう。

 たとえば、冒頭の広志は、労働形態の仕組みにより「名ばかり正社員」を余儀なくされているケースである。その待遇は思いのほか悪い。

 広志は2004年3月、東海地方にある国立大学の工学部を卒業し、派遣会社に正社員として就職した。この年の大卒就職率はわずか55.8%、前年度は過去最低の55.1%という「超就職氷河期」。化学メーカーなどへの就職を希望したが内定が出ず、大学の就職課に相談すると、「技術職に特化した派遣会社」を紹介されたのだ。

 自動車部品をつくる際の設計の仕事で、基本給は18万円。職務手当て1万円と皆勤手当て1万円がつくと、月給は20万円になる。面接では、「派遣先や仕事内容を選べる」と説明された。ただし、正社員とはいえ、その実態は派遣会社と取引のある企業に派遣される「特定派遣」である。だが、「フリーターになるよりはマシ」と思って派遣会社への就職を決めた。

 現在、派遣業界は成長が著しい。2006年度の派遣労働者数は前年比26.1%増の321万人、派遣事業所の売上高は同34.3%増の5兆4189億円と膨張している。この派遣労働者には、大きく分けて「一般労働者派遣事業」と「特定労働者派遣事業」がある。多くの人がイメージするのは一般派遣で、派遣会社に登録して事務職や営業職などに短期間派遣される業態だ。業界売上高の約8割を占めている。

 一方の特定派遣とは、派遣会社に正社員として雇用されながら、派遣社員として働く業態。一般派遣では「派遣契約期間が短くて不安定」など、労働条件が悪いため、人員確保が困難になりがちなSE(システムエンジニア)などの技術系派遣が多い。