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元経産官僚・伊藤慎介の“天落”奮闘記

なぜ経産省を辞めて“天落”人生を選んだのか
“集合住宅型”国家プロジェクトの限界

伊藤慎介 [株式会社rimOnO(リモノ)代表取締役社長]
【第1回】 2014年12月10日
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 2014年7月15日、15年間勤務した経済産業省を退官した。

 多くのすばらしい人たちとの出会いを与えてくれ、産業の将来ビジョンの提示や大きな国家プロジェクトの立ち上げなど数多くの新しい挑戦の機会も与えてくれた組織だったが、毎日通った門を出ていくときの気持ちは不思議と晴れ晴れとしていて、一点の曇りもなかった。

 官僚のキャリアパスと言えば、定年間際まで官僚人生を全うし、“天下り”で給料の良い民間企業のポストにありつくというのが典型的なパターンと言われてきた。しかし、筆者は“天”の位置から“下る”のではなく、自ら“落ち”ることを選んだ。ただしく、“天落”である。

 そして9月11日、強い風雨で外出する気が失せる天気の中、東京法務局に向かい、「株式会社rimOnO」(リモノと読みます)の設立登記を完了し、ベンチャー企業の社長としての生活がスタートした。

 経済産業省での15年間は本当に充実していた。しかし、筆者は道半ばにそのキャリアを投げ打って起業の道を選んだ。今は3ヵ月先、半年先がどうなっているのか見通せない自分がいる。それでも悔いる気持ちはまったくない。

 「“天落”奮闘記」の第1回では、なぜ筆者がこういう気持ちになったのか、なぜ官僚のキャリアを捨てて、起業という茨の道を選んだのかを述べてみたい。

将来ビジョンを描けるのは
「国」や「会社」ではなく「個人」

 筆者は、父が大手メーカーに勤務するサラリーマン一家に生まれた。小学校4年生から父の海外赴任で米国に住むこととなり、6年間の米国生活を経験した。

 当時は日本製の家電が米国のあらゆるところで売られ、日本車のシェアもどんどん伸びていた。その反面、日本人はエコノミックアニマルとたたかれ、通商摩擦を起こされるなど、米国から理不尽な扱いを受けていることも肌で感じた。そういう経験から、「日本という国を支えているのは製造業だ」というものづくりに対する思いと「素晴らしい人と文化を持つ日本が世界でもっと認められる国にしたい」という愛国心が生まれた。大学では工学部を選び、その後に当時の通商産業省の門をたたく道を選んだ原点は、あの6年間の米国生活だったのだと感じている。

 経済産業省に入ってからは、数々の優秀な上司や先輩の取り組みを見ながら、「どうすれば日本の産業を強くすることができるか」ということを常に意識するようになった。「ビジネスを育てるには先行投資が必要」と言って補助金を取りに行く先輩もいれば、「ルールを変えなければ構造は変わらない」と言って制度改正にまい進する先輩もいた。また「世の中を変えるにはビジョンを示すことが大事」と言って、担当している業界で尖った意見を持つ “サムライ”を集めてその業界の将来ビジョンを提示する先輩もいた。

 筆者も2007年には電気自動車、2009年にはスマートハウス、2010年にはスマートコミュニティについて将来ビジョンを提示し、それぞれについての国家プロジェクトを立ち上げる貴重な経験をさせてもらった。

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伊藤慎介 [株式会社rimOnO(リモノ)代表取締役社長]

いとう・しんすけ/株式会社rimOnO(リモノ)代表取締役社長。1973年生まれ。京都大学大学院工学研究科卒業後、1999年に通商産業省(現、経済産業省)に入省。経済産業省では、自動車用蓄電池の技術開発プロジェクト、スマートハウスプロジェクト、スマートコミュニティプロジェクトなどの国家プロジェクトを立ち上げた後、2011~2013年には航空機武器宇宙産業課において航空機産業政策に従事。2014年7月に経済産業省を退官し、超小型電気自動車のベンチャー企業、株式会社rimOnOをznug design根津孝太と共に設立。


元経産官僚・伊藤慎介の“天落”奮闘記

経済産業省の官僚としてキャリアを積んできた伊藤慎介氏。しかし、新しいコンセプトの電気自動車を世に出すべく退官。株式会社rimOnOを設立した。官僚として定年まで勤めて政府系団体のポストに就くのが“天下り”だが、伊藤氏は官僚という“天”の地位から“下る”のではなく自ら“落ち”、リスクを背負って起業した。しかし、伊藤氏はそれによって産業政策についての新たな視点を得た。本連載では今の日本に求められるイノベーションとは何なのか、新たな産業の創造には何が必要なのか、官僚を辞めリスクをとって起業し、奮闘したからこそ見えてきた視点・視角をお届けする。

「元経産官僚・伊藤慎介の“天落”奮闘記」

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