自宅近くを巡回するコミュニティバス、もう少し使い勝手をよくできないか?とにかく本数が少ないし、地域内をくまなく回るので時間もかかりすぎる。しかもたいていはガラガラだ。ならばいっそ、タクシーのように予約に応じて配車してくれればいいのに…。
これが“デマンド交通”という発想の原点だ。予約をもとに便を組むので、ガラガラな“空気バス”が走ることはないし、乗降のある停留所しか通らないので無駄な遠回りをすることもない。その歴史は意外に古く、1972年に大阪府最北端の能勢町で廃止に瀕した阪急バス路線をデマンド化で存続させ、お年寄りの足を確保したのが日本での初導入例だ。
それから四十有余年。ビッグデータを駆使して人の動きを解析し、自宅と職場を最短で結ぶと謳う会社「Bridj」がアメリカに現れた。だが、かけ声こそ勇ましいが、実際にできているのは、ボストン市内で市バスの路線がなかった経路をチャーターバスで結んだことだけだ。
デマンド交通が難しいのは、できるだけ多くの予約を束ねて1台に相乗りさせねばならない点にある。タクシーのように予約ごとに1台を配車するならまだ楽だが、それではバスなみの運賃にはできないし、自治体が300円でタクシーと同じことをやれば、地域のタクシー会社は潰れてしまう。
Aさんは市民病院の予約が10時半にあり、Bさんは10時53分発の汽車にJR駅から乗りたい――というように、場所と時間が少しずつ異なる需要をいかに束ねて効率化するか。その難題に挑む2社から話を聞いた。