集団的自衛権の行使に反対の立場をとる元防衛官僚・内閣官房副長官補の柳澤協二氏のインタビュー後編。柳澤氏は安倍政権の抑止力に対するシナリオは楽観的に過ぎ、集団的自衛権を強調することは日本の安全にマイナスと分析。第2次大戦後に築いてきた「平和ブランド」の活用こそが、長期的な国益にかなうと述べる。
楽観的なシナリオしか考えていない
──安全保障政策の前提となる国際環境も、かつてとは大きく変わっているかと思います。
何が変わったかと言えば、一つは、冷戦時代のソ連を相手にした、最後は核の撃ち合いによる相互確証破壊といった、盤石な抑止構造がなくなっているということですね。もう一つは、抑止の対象がソ連から中国に変わっているということです。その中で、アメリカの力の相対的な低下、アメリカの一極支配が崩れているという構図がある。
そういう大きなトレンドの中で、どうしていくか考えなければいけない。
今のトレンドをそのまま単純に伸ばせば、やがて中国の軍事費がアメリカの軍事費を抜いて、アメリカを凌駕する日がくるかもしれません。しかし、実際には中国もいろんな問題を抱えていますから、いつまでそういう路線が続けられるか。
そしてアメリカは、相対的に力が弱くなったとはいえ、いまだに中国の4倍から5倍の軍事費があります。今までのストックで言えば、アメリカ一国で残りの世界よりも多いぐらいの軍事費をずっと使ってきている。そのアメリカの優位性というのは、見通し得る将来にわたって、やはり揺るがないだろうと私は思います。
もし本当にアメリカの優位性が揺らいでいくとした場合に、それを日本が補完するとしても、この財政状況でそんな大軍拡はできるわけはない。結局、軍拡によるバランスの維持ということを考えた場合には、どこかで息切れするわけです。そういう意味でも、政策に継続性があるのかということを考えなければいけない。
もう一つは、日本とアメリカの関係です。地政学的に、日本はアメリカがアジアに展開するために必要不可欠な位置にいる。つまり、ソ連が相手であろうが中国が相手であろうが、日本が最前線の拠点であるという現実は、これまでと同じなんですね。