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ニッポン 食の遺餐探訪

アメリカ人も絶賛した日本の辛味調味料
「かんずり」はタバスコを超えるか

樋口直哉 [小説家・料理人]
【第27回】 2015年2月4日
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唐辛子と麹、塩、柚子からつくられた辛味調味料『かんずり』

 僕の目の前に一本の瓶がある。ラベルの表面には不思議な書体で『かんずり』と書かれている。瓶はちょうど掌サイズだ。蓋を開けるとガラスが厚いことがわかり、それが質実剛健な印象を与える。

 辛味調味料である『かんずり』は、『唐辛子と麹、塩、柚子を混ぜあわせ、数年間かけてつくられたもの』だということは知っているが、この商品をはじめて目にしたのはいつだったか。ある日、それは冷蔵庫の棚にあったと記憶しているが、いつだったかはわからない。この商品自体にはずっと昔からそこに存在していたかのような雰囲気がある。

 『かんずり』という名称も不思議な響きだ。調べてみると「寒づくり」がその由来だという。そう聞くと寒い季節に薬研やすりばちで唐辛子をする姿が浮かんでくるようである。さらに調べてみると新潟県妙高市の特産であることがわかる。なるほど、たしかにそうラベルにも書かれている。『かんずり』は地方発の調味料なのだ。

 地方の調味料が全国に広まった例に柚子胡椒があるが、それはいくつものメーカーが製造している。メーカーのなかにはもちろん、大手も含まれている。ところが『かんずり』を製造できるのは妙高市にある「有限会社かんずり」一社だけである。

 ところで、増え続けている訪日外国人の来日目的の1位は「日本食」(53.3%)らしい。次いで温泉(46.9%)、ショッピング(40.1%)と続く。細かな数字は年によって違うが、日本食の1位はすでに不動のものとなっている。さらにはお土産としては調味料が好まれているという。世界無形文化遺産に登録された日本食は遺産などではなく、日本人が今も平等に持っている無形の財産だ。

 そんな日本食は時折、外国人からあくまで美味しいと前置きしつつも「味が薄い、淡泊、単調」と指摘されることがある。味が薄いということは塩分濃度が少ないという意味ではない。不満の原因は香辛料にある。諸外国の料理文化は元々、腐りやすい食べ物を長く持たせるための香辛料とともに発達してきた歴史があり、それに比べると日本料理は穏やかにうつるのかもしれない。

 しかし、日本の食文化にも諸外国に誇れる香辛料、調味料がある。『かんずり』はその代表だ。

1本の製品になるまで約4年
新潟の冬の寒気を生かした『かんずり』

 妙高市は新潟県南西部、長野県と接する場所にある。実際に足を運んでみると東京から意外と近いという印象だ。今年の3月に北陸新幹線が上越妙高駅に開通すれば、1時間50分たらずで着いてしまうためさらにアクセスは容易になる。

 新井駅で電車を降りると、冬の空気が冷たく澄んでいるのがわかる。降り積もった雪が埃の舞い上がりを防ぐためだ。この雪がかんずり造りには重要な役割を果たす。

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樋口直哉 [小説家・料理人]

1981年生まれ。服部栄養専門学校卒。料理人として活動する傍ら、2005年、『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、小説家としてデビュー。ほかの作品に『月とアルマジロ』(講談社)、『大人ドロップ』(小学館)、『星空の下のひなた。』(光文社)、『ヒマワリのキス』(徳間書店)、『アクアノートとクラゲの涙』(メディアファクトリー)がある。

 


ニッポン 食の遺餐探訪

和食を世界遺産に、という動きが農林水産省を中心にはじまっている。日本料理はここ十年余りの世界的な流行になり、外国の料理人の多くも関心を持っていて、誰もがそれを理解しようとしている。しかし、当の日本人の多くは日本料理を理解できていないのではないか。そこでこの連載では、日本の食を支えている道具や食材をつくっている生産者、職人を訪れて、私たち日本人が知らない日本の“食の遺餐”を紹介していく。 

「ニッポン 食の遺餐探訪」

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