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ニッポン 食の遺餐探訪

なぜ外国人シェフは「日本の包丁」に惚れ込むのか

樋口直哉 [小説家・料理人]
【第19回】 2014年6月4日
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これは柳刃包丁。ご存知、魚を刺身にするのに使う包丁だ。和包丁は用途によって200ほどの種類がある。プロはそれらを使いわけ、目指す味をつくりだす

 国際社会における日本の影響力の低下がいたるところで説かれるが、こと料理業界について言えばそれは必ずしも当てはまらない。日本料理人は世界から引っ張りだこで、海外から日本に料理を学びにくる人も増加している。一昔前であれば考えられないことだ。

 もちろん金額が違うので、一概な比較はできないのだが、家電をはじめ、日本製品が売れない、という悲観論が囁かれるなか、例えば包丁は財務省が出している貿易統計によると、台所用刃物の輸出額は04年以降(リーマンショックのあった年を除き)右肩上がりの成長が続いている。

 かつては海外の星付きレストランのシェフたちが来日すると、包丁を何本も買い込んで本国に持ち帰る光景が見られたが、今ではごく当たり前のように誰しもが日本の包丁を使う時代になった。

プロ用和包丁シェア90%の堺市
職人の分業で成り立つ包丁づくりの世界

 世界のシェフが日本の包丁を認めている理由は、やはりその切れ味だ。例えば刃物で世界的に有名なドイツ、ゾーリンゲンのツヴィリングJ.A.ヘンケルス社は最高級ラインの商品を製造する工場を、岐阜県関市につくっている。最高の切れ味を実現するには日本の職人の技術が必要だったからだ。

 ドイツの会社のフラッグシップモデルである洋包丁が日本で製造されているということは、業界外の人にはあまり知られていないかもしれない。

 さて、洋包丁の話は横に置いておいて、日本料理の料理人が愛用する和包丁の産地は大阪、堺市である。堺市の刃物の全国シェアは約7%と小さいが、プロ用の和包丁に関しては90%以上のシェアを誇っている、という話だ。

 今回は包丁づくりの実際を見学するために、堺市にある和泉利器製作所を訪れた。和泉利器は堺刀司ブランドの刃物で知られた1805年創業の老舗である。日本の包丁の産地には高知、福井、岐阜、新潟などがあるが、一部以外ほとんどが分業生産を行っている。堺の包丁づくりも鍛冶、刃付け、柄付けと製造工程が分業化されているのが特徴だ。

 ここで堺の包丁の世界について説明しておきたい。

 先に説明したように堺の包丁づくりは分業制で行われている。

 鍛冶屋:鉄から包丁を生みだす作業だ。火の力を使い鉄を鍛造し、おおまかな形をつくる。

 刃付け屋(研ぎ屋):鍛冶屋からあがってきた包丁の形のものを、研いで刃を付けるところ。

 柄屋:柄を製造する場所

 卸し:卸屋は包丁を小売店に卸すだけではなく、柄つけや仕上げなど商品にする作業を担当。ここで包丁メーカーなどの銘を切ることもある。

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樋口直哉 [小説家・料理人]

1981年生まれ。服部栄養専門学校卒。料理人として活動する傍ら、2005年、『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、小説家としてデビュー。ほかの作品に『月とアルマジロ』(講談社)、『大人ドロップ』(小学館)、『星空の下のひなた。』(光文社)、『ヒマワリのキス』(徳間書店)、『アクアノートとクラゲの涙』(メディアファクトリー)がある。

 


ニッポン 食の遺餐探訪

和食を世界遺産に、という動きが農林水産省を中心にはじまっている。日本料理はここ十年余りの世界的な流行になり、外国の料理人の多くも関心を持っていて、誰もがそれを理解しようとしている。しかし、当の日本人の多くは日本料理を理解できていないのではないか。そこでこの連載では、日本の食を支えている道具や食材をつくっている生産者、職人を訪れて、私たち日本人が知らない日本の“食の遺餐”を紹介していく。 

「ニッポン 食の遺餐探訪」

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