2015年1月14日、次年度予算案とともに、生活保護費のうち家賃分・暖房費分の引き下げが閣議決定された。1月9日に社保審・生活保護基準部会が取りまとめた報告書のごく一部が「ツマミ食い」され、引き下げの根拠となっている。

今回の内容は、基準部会の部会長代理・岩田正美氏インタビューである。引き下げのもたらす結果を、どう考えているのだろうか? なぜ、基準部会での議論と乖離した「引き下げ」が決定されてしまうのだろうか? 基準部会の果たすべき役割をどう考えているのだろうか?

基準部会でさえ止められない
住宅扶助・冬季加算の引き下げ

結論ありきで生活保護削減を決めた厚労省の非情岩田正美(いわた・まさみ)氏
1947年生まれ。博士論文『戦後社会福祉の展開と大都市最底辺』(ミネルヴァ書房)で第2回社会政策学会学術賞などを受賞。研究テーマは貧困・社会的排除・福祉政策を中心として幅広い。現在、日本女子大学教授。
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「あとで、とんでもないことが起こったら、私たちは責任を負うことができません」

「生命にかかわる支出です。安全に、慎重に検討してほしいです」

 生活保護費の冬季加算(主に暖房費相当分)に関して、このように述べたのは、社会福祉学者・岩田正美氏(日本女子大学教授)だ。2014年12月26日に開催された、社保審・生活保護基準部会(基準部会)の場でのことである(部会での岩田氏発言は筆者のメモによる)。

 この日、年明けの新年度予算編成を視野に入れ、基準部会は報告書の取りまとめ段階に入っていた。報告書は、専門家である部会委員たちの議論を参考にしつつ、厚労省の事務局が取りまとめる。翌2015年1月9日に取りまとめられた報告書の内容は、主として、2013年秋から議論が重ねられていた住宅扶助(家賃分)と冬季加算の検証であった。12月26日、部会委員たちに提示された報告書案には、厚労省の、

「妥当な検討によって『引き下げやむなし』という結果になっているんです」

 という結論を導きたい意向が、「半透明の衣の下から鎧が丸見え」と筆者には感じられた。もっとも、その意向に沿うデータは、ほとんどなかったのであるが。

 基準部会の部会長代理である岩田氏は、この場でさらに、

「現実的な(燃料等の)消費量を取り上げていくことが大事です。差額は、そんなに(大きく)ないにしても。確証がほしい」

 と述べた。筆者には「心の底からの声」と感じられた。

 年明けの2015年1月9日にも、基準部会が開催された。このとき、報告書案が最終的に取りまとめられ、同日夜に公開された(社会保障審議会生活保護基準部会報告書)。部会委員たちの多くは、引き下げという結論が導かれかねないことへの懸念と、それが生活保護利用者たちの生活・健康・生命に悪影響を及ぼす可能性とその検証の必要性を、口々に主張した。それらの発言は、何らかの形で報告書に反映された。

 しかし5日後の1月14日に閣議決定された2015年度予算案には、冬季加算の8.4%の引き下げ(2014年度実績推計値比)・住宅扶助の4.1%の引き下げ(2014年度補正予算比)が含まれていた。報告書内容のごく一部が、引き下げの根拠として「ツマミ食い」された形であった。

 そもそも政府・財務省は2012年以後一貫して、生活保護費引き下げの必要性を主張し続けている。日本の政治の日常から考えれば、「結論ありき」で厚労省が引き下げ方針を出さざるを得ないことは、もはや必然ではある。

 いずれにしても政府は、岩田氏のいう「とんでもないこと」を現実にしかねない可能性に向けて、大きくハンドルを切ってしまった。

 基準部会にはなぜ、それを止める力がないのだろうか? 基準部会の役割は、各分野の専門家である部会委員たちの役割は、何なのだろうか?