民主党の大統領候補選は、4月22日に行われたペンシルバニア州の予備選でクリントン候補が勝ち、5月6日のノースカロライナ州ではオバマ候補が勝ち、インディアナ州ではほぼ引き分けた。これまでに獲得した代議員数(特別代議員を含む)はオバマ候補が1839人、クリントン候補が1689人で、オバマ候補が150人リードしている(5月6日現在)。先に2025人を獲得した方が大統領候補に指名される。

 クリントン候補は選挙資金でも劣勢に立たされている。オバマ候補が今年3月の1ヵ月間に4280万ドルもの政治献金を集めたのに対し、クリントン候補は2090万ドルしか集められなかった。多くの有権者はまもなくクリントン候補が敗北宣言をしてレースから降りると予想していた。しかし、クリントン候補は持ちこたえてペンシルバニアで逆転勝利した。

 だが、彼女が採った劣勢挽回策はネガティブ・キャンペーンだった。これは対立候補の弱点を徹底的に突いて人気を落とし、自分が浮上する戦術である。オバマに不利になる材料を探しては責め上げた。格好の材料となったのが、オバマ候補とライト牧師との関係である。

オバマ発言の揚げ足取りで
予備選勝利したクリントン

 ライト牧師はオバマが長年通っている教会の牧師で、オバマとミッシェル夫人の教会での結婚式を司祭し、二人のお嬢さんに洗礼も与えるほど、オバマと親密な関係にあった牧師である。この人は政府の黒人への対応を批判し、アメリカ人の愛国心を逆撫でするような過激なアジ演説をする牧師である。「9/11が起きたのもアメリカの責任である」といった過激な発言集は、YouTubeで繰り返し流された。

 オバマ候補は「ライト牧師は20年前に私をキリスト教に導いてくれた恩師であるが、最近の発言には扇動的なものが多く私の考えと相容れない」と同牧師と距離を置いていることを強調した。だが、クリントン候補は「オバマ候補はライト牧師同様、愛国心に欠けるのではないか。9/11の犠牲者に申し訳ないと思わないか」と、オバマ候補を批判しながら、ニューヨーク州選出の上院議員として同州の有権者を引きつける材料に使った。

 オバマ候補のペンシルバニアの住民に関する発言も揚げ足を取られた。「この州の住民の中には歴代政権に復興を約束されながらも見捨てられてきたと思っている人がいる。そのため政治に苦々しい思い(bitter)を抱いており、フラストレーション解消のために銃に走ったり、宗教に入れ込んだり、移民問題や貿易問題に反対する傾向がある」と発言した。演説全体の文脈から見てそれほどおかしな発言ではなかった。