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組織の病気~成長を止める真犯人~ 秋山進

理研を例に考える~野心的な新規プロジェクトが失敗する理由

秋山進 [プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役]
【第14回】 2015年3月3日
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理研の「STAP細胞」問題は
対岸の火事ではない

社内ですら知る人はほとんどいない新規プロジェクト。異色の人材をスカウトし、壮大な実験は進んでいたのだが……
Photo:カシス-Fotolia.com

 トップ肝入りの新規プロジェクトが始動した。普段なら採用しない異色の人材をスカウトし、いきなり重職へと抜擢。これをきっかけに、最先端といわれている提携先とも協力しながらプロジェクトを進め、その分野において一気に業界をリードする、という野心的な計画だ。最重要のプロジェクトであり、かつ外に情報が漏れてはいけないということから、社内ですらそのプロジェクトの詳細を知る人はほとんどいない。「聖域」といえば聞こえはいいが、事実上の「ブラックボックス」である。トップの肝入りプロジェクトだから誰も干渉することはできない。

 お気づきの方も多いと思うが、これはSTAP細胞をめぐる理化学研究所(理研)の話である。しかし、自分の会社の事だと思った方もたくさんおられると思う。この手の話は企業にもよくあるのだ。そして、残念ながらそのほとんどが失敗するのである。

 スカウト社員の採用とともに鳴り物入りでプロジェクトは始まる。しかし、途中で一、二度、中間発表なるものが社員向けになされ、トップの「順調に進んでおります」という説明を聞くのだが、2年もしないうちにその社員が退職し、プロジェクトは何の説明もなく解散。残されたのは多額の累積損失、というのがお決まりのパターンだ。

 プロジェクトの後始末をすることになった担当者は、ルールを無視した業者の選定方法、PDCAが無い行き当たりばったりな仕事の進め方、ずさんな金の使い方など、このプロジェクトで行われていた事実を知り、愕然とする。既存事業の社員が汗水流して獲得した利益を、なんだか良くわからない奴に無駄に使われて…。怒りの矛先は、やがて、それを許したトップに向かう。しかし、トップは「あいつには騙された」とスカウトした元社員の個人的な問題に振り替えて、被害者の立場を取るのである。

 最終的に、会社には一種のトラウマとも言うべき負の経験則が残る。聖域化され隔離されるようなプロジェクトは二度とやってはならない。チェックが入らないから勝手な振る舞いが横行し、大きな損失を生みだす。新規のプロジェクトも既存事業同様必ずチェックをせよ。会社の採用基準は厳格にし、既定の採用方法を堅持せよ。変な人、危険な人に大きな仕事を任せてはいけない。

 たとえば理研の問題に対する調査委員会の報告書も、チェックの重要性と研究所としての採用基準の厳守についての言及を行っている(*1)

(*1)研究不正再発防止のための提言書 問題発生時の状況を丁寧に調査し、研究体制や組織のあり方についての提言を行っている。本記事における理研についての記述はこの提言書の記載に依存している。

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秋山 進 [プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役]

リクルート入社後、事業企画に携わる。独立後、経営・組織コンサルタントとして、各種業界のトップ企業からベンチャー企業、外資、財団法人など様々な団体のCEO補佐、事業構造改革、経営理念の策定などの業務に従事。現在は、経営リスク診断をベースに、組織設計、事業継続計画、コンプライアンス、サーベイ開発、エグゼクティブコーチング、人材育成などを提供するプリンシプル・コンサルティング・グループの代表を務める。京都大学卒。国際大学GLOCOM客員研究員。麹町アカデミア学頭。

著書に『「一体感」が会社を潰す』『それでも不祥事は起こる』『転職後、最初の1年にやるべきこと』『社長!それは「法律」問題です』『インディペンデント・コントラクター』『愛社精神ってなに?』などがある。


組織の病気~成長を止める真犯人~ 秋山進

日本には数多の組織があり、多くの人がその中に属しています。組織は、ある目的のために集まった人たちで成り立っているにも関わらず、一度“病”にかかれば、本来の目的を見失い、再起不能の状態へと陥ります。しかも怖いのが、組織の中の当人たちは、“病”の正体が分からないどころか、自分たちが“病”にかかっていることすら気づけない点です。

この連載では、日本の組織の成長を阻害している「組織の病気」を症例を挙げて紹介。コンプライアンスの観点から多くの企業を見てきた筆者が考える治療法も提示します。

「組織の病気~成長を止める真犯人~ 秋山進」

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