【2】
人が理解できる領域には「4つの階層」がある

 人の理解できる領域は、階層状になっているように思うんです。一番外には、たとえば数字、スペック、価格というものがきます。これらは、万国共通で理解しやすいレベルです。

 その内側にくるのは、日々の生活や住んでいる地域において共有できる感覚や、時代の空気感といったトレンドみたいなもの。

 そのさらに内側に入ってくるのが文化的な要素です。「しっくり」くるかどうかということなどが、この階層の話。

 最後の中心にあたるのは人の本質的な部分で、それが、美味しいと感じるか、まずいと感じるかというところになります。たとえばアフリカの人であってもアメリカの人であっても日本の人であっても、これは美味しそう、まずそうというのが「なんかわかる」という感覚です。

 そういう本質的な部分に、体は自然と反応します。たとえば真っ暗闇の中で明かりをぱっとつけたら思わず反応するというのも、直感や本能といった人間として本来備わった要素がある。

この4つの階層をどこまで意識しながらモノづくりや企画を考えていくかによって、本当のロングセラーになるか、さらっとワンオフで売れるものになるのか、変わってくる気がしています。

 それはターゲットの絞り込み方とも連動します。絞り込むとなるとトレンドや価格やスペックはきちんと意識しなければなりませんが、iPhoneのような、世界中の人が理解できて使い方もわかって愛される商品を目指すのであれば、そのさらに奥の奥を意識しないといけません。

【応用編】バナナのストーリーを、
美味しそうな「シール」で伝える

「しあわせバナナ」というバナナのパッケージを依頼されました。フィリピンのミンダナオ島中北部にある国定公園内の、標高1000m以上の農園で栽培される高級バナナです。

 有機肥料や農薬の厳しい使用制限が徹底されていて環境に配慮されているだけではなく、その味わいはベルギーの優秀味覚賞で栄誉ある「2つ星」を受賞した(しかも、バナナで初めて)のだとか。

普通、こうしたストーリーがあると、一生懸命伝えたくなります。でも、聞くほうの身になると、「これはこういう理由ですばらしいんですよ」と説明されても、アタマになかなか入ってこないものです。しかもこの場合、高級品だからといって豪華なパッケージに入れてしまっては、環境に配慮したバナナにふさわしくありません。

 そこで考えたのが、バナナの皮の表面にシールを貼る、というアイデア。シールは2層になっていて、1枚目はまさに「食べごろ」のバナナの皮の質感や色をできるだけ再現し、キズやシミも加えてリアルに。シールは一部がめくれかけていて、剥がすとバナナの熟した果肉の画像を背景にメッセージを記した2枚目のシールが現れる、というもの。

 バナナについての情報を押しつけるのではなく、思わず読みたくなるストーリーを、本能が反応する最小限の包装で演出した結果、なんとも「美味しそうな」デザインとなったのでした。