電子化された世界では、プライバシーの価値が異なります。エストニアでは、例えば私についてネット検索をすると、住所や給料も調べられます。ですが、これは“秘密”ではなく、透明性があるということに過ぎません。

 重要なのはIDカードからアクセスするための鍵が、自分の頭の中だけに存在するということです。

――とはいえ、エストニアのような小国がなぜ、高度なITが必要な電子政府に取り組めたのですか?

 エストニアの面積はデンマークより大きく、1500以上の島がありますが、人口は130万人に過ぎません。密度が低く、公的機関も民間企業も十分なサービスを提供するのにコストがかかりました。

 ですが、電子化すれば、地方の老人も、お金を振り込むために銀行に行く必要がなくなります。今や銀行取引の99%がネット経由で行われています。行ってみれば分かりますが首都タリンにある銀行に行っても列を作る人は5人もいませんよ。

 そうしたサービスは、全てこのIDカードでできるのです。

 また、民間企業も、人口が少ないため、国内で民間同士の競争に明け暮れることはなく、この電子化という国の方向に賛同し、協力してくれました。民間企業が多くの年配の方に対して、電子サービスの利用を指導してくれたのです。

―― 一番の利点は何でしょうか?

 現在、エストニアでは選挙が行われていますが、多くの年配層が電子的に投票します。しかも、海外旅行中や、留学中のエストニア人も投票できます。

 しかも海外の知見を手に入れた人たちが、それを踏まえて、自国に投票できるのです。理想的な国政のあり方ではないでしょうか。

 しかも、電子化により、個人に対する会計士や税理士などの仕事はほとんど必要なくなりました。税金の還付も95%以上は電子上で自動的に算出されているためで、今や、世界でも有数の税金徴収コストが低い国となりました。

 そして、税務の代わりに、ITなどで新たに生産的な職も生み出されています。