>>中編から続く

TPP(環太平洋経済連携協定)交渉で、日本の社会、文化、そしてビジネスに大きな影響を及ぼす可能性がある著作権問題。3回に分けてお送りした福井健策弁護士インタビューの最終回は、交渉に日本がどのような戦略で臨むべきか、そして政府や国民は、この問題にどう向き合うべきかを考える。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 河野拓郎)

国内制度でTPP版著作権を
“骨抜き”にするのは可能か

──著作権の「非親告罪化」「法定賠償金」「保護期間の延長」を導入せよ、という米国等の主張(上編中編参照)を、仮に日本がのんだとします。そこで、国内の規定や運用で、影響を軽減する、ということはできないのでしょうか。

ふくい・けんさく
弁護士・ニューヨーク州弁護士。骨董通り法律事務所For the Arts代表パートナー、日本大学芸術学部客員教授。1991年東京大学法学部卒業、98年米国コロンビア大学法学修士課程修了。芸術文化法、著作権法を専門とし、thinkC(著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム)世話人、国会図書館審議会など多数の審議会・委員会・団体の委員・理事も務める。著書に『18歳の著作権入門』(ちくま新書)、『著作権の世紀 ─変わる「情報の独占制度」』(集英社新書)、『「ネットの自由」vs.著作権 ─TPPは、終わりの始まりなのか』(光文社新書)など。

 もちろんいざそれらの制度が導入されるとなったら、国内のセーフガードの議論はやっていくべきでしょう。現段階でも、そうした国内論議はあります。私自身も、そうした発言をおこなうことがあります。

 ただし、そのどれもが負の影響をカバーするには不十分であり、なおかつ、単に言うよりもはるかに、実現は難しいでしょう。これまで、若干の法改正や新しい法制度づくりを見てきた経験から言えば、そんな簡単なものではない。

 メニューやアイデアは、既にいくつかあります。例えば、非親告罪化でも対象を「累犯に限る」、あるいは「悪質な海賊版だけに限る」などとしてしまえば、影響は限定されますよね。保護期間の延長ならば、「登録作品のみ、死後70年」とすれば、影響は多少は抑えられます。法定賠償金は、実際の運用において、裁判所がいくらでもない賠償額を命じるようすれば、現実には悪影響はあまりないでしょう。

 しかし、本体のTPPにそれらを許す記載がない場合、どれをとっても条約違反の疑いはぬぐえないですよね。条約内にセーフガードに関する明記がないにもかかわらず、国内法で条約を骨抜きにするような規定を入れるとすれば、当然、違反の疑いが浮上します。