>>上編から続く

TPP(環太平洋経済連携協定)交渉で、日本の社会、文化、そしてビジネスに大きな影響を及ぼす可能性がある著作権問題。「非親告罪化」を取り上げた上編に続き、今回は「法定賠償金」「保護期間の延長」について、この分野の第一人者である弁護士の福井健策氏に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 河野拓郎)

訴訟ビジネスを呼び寄せる
「法定賠償金」制度

──米国が導入を主張している“3点セット”の1つ、「法定賠償金」ですが、耳慣れない制度です。どういうものでしょうか。

TPPで、昔の映画や文学が世の中から消えてしまう!?ふくい・けんさく
弁護士・ニューヨーク州弁護士。骨董通り法律事務所For the Arts代表パートナー、日本大学芸術学部客員教授。1991年東京大学法学部卒業、98年米国コロンビア大学法学修士課程修了。芸術文化法、著作権法を専門とし、thinkC(著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム)世話人、国会図書館審議会など多数の審議会・委員会・団体の委員・理事も務める。著書に『18歳の著作権入門』(ちくま新書)、『著作権の世紀―変わる「情報の独占制度」』(集英社新書)、『「ネットの自由」vs.著作権 ─TPPは、終わりの始まりなのか』(光文社新書)など。

著作権の非親告罪化は刑事の話ですが、これは民事で、侵害者に対し、権利者が被った実損害以上の賠償金を、裁判所が命じることができる制度です。

 米国では、故意に侵害を行った場合は最高で1作品当たり15万ドルの賠償金を裁判所が命じることができる。刑事罰で国に納める罰金とは別にです。

 15万ドルはあくまで最高額ですが、やはり賠償金は高めになることが多い。日経コムライン事件(*)というケースでは、1記事当たり、1万ドルの法定賠償金が命じられました。それが20記事分認められましたので、計20万ドルです。それとは別に、弁護士費用としてさらに20万ドル、合わせて現在のレートで約4800万円の賠償となりました。

 実は日本でも、同時期に同種の裁判が起こされているのですが、こちらでは1記事当たりの賠償金額900円です。文字通り桁がいくつも違う。

──法定賠償金の目的は何ですか。

 制度趣旨は、侵害の再発防止です。日本もさすがに低すぎると思うし、米国はやはり高すぎるとは思いますが、それだけ高ければ抑止力にはなりますよね。

 ただこれが、米国で知財訴訟が頻発し、賠償金が高騰する主因だと言われています。実際に、大問題視されている「コピーライトトロール」というものがあって、これはこの法定賠償金制度を使うんですね。特許の分野の「パテントトロール」という言葉の方が有名ですが、コピーライトトロールとは、賠償金や和解金を狙って、侵害者に高額訴訟をしかけるビジネスです。この場合、訴訟をしかける側は確かに著作権を持っていますが、相手が本当に侵害をしたかは疑問で、企業などが著作権を買い集めてビジネスとして行っていることもあります。

*1 日本経済新聞社が、同社新聞記事を無断で翻訳・抄訳し、販売していた日本のコムライン・インターナショナル社、および米国のコムライン・ビジネスデータ社を訴えた事件。前者は1994年の判決、後者は1999年の判決で、著作権侵害が認められた。