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放射線の問題を「理系の話」にとどめない
——社会学者・開沼博

開沼 博 [社会学者]
2015年3月27日
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東日本大震災から5年目を迎えてもなお、福島は未解決の課題で山積みである。福島には安易に触れてはいけない、「絡みづらい」という思いが、向き合うべき課題から目を背けることにつながってはいないだろうか。震災以前から原発問題を論じ、震災以後、福島の課題と対峙し続けている開沼博が、市民との対話を通して、福島の現状を探る。

福島の食と農に真剣に向き合う

 2015年2月11日。福島県福島市で行われた、除染や放射線に関して、地元で生活するさまざまな立場の人々が意見交換をする会、「ポジティブカフェ」が開催された。

 「難しい・面倒くさい」状態になりつつある福島の問題のなかでも、特にややこしいのが除染や放射線についてである。地元ではいかなる思いがあり、どのような取り組みが行われているのか。

 2回目の今回は、「食・農」をテーマに、山形避難者母の会代表・中村美紀さん、福島大学経済経営学類教授・小山良太さん、筆者の3名でディスカッションを行った。

***

開沼前回は、実際に生活するなかでどのくらいの線量があるのかを「はかる」ことを通して、放射線についてどう考えていけばよいのかを話してきました。

 今回のテーマは「食・農」です。中村さんは震災後、いったん山形県に避難をして、ふたたび福島県内に戻ってきて生活されています。「食・農」について、どのような取り組みをされたのかをお話ください。

中村 家で子どもたちと食べている食事を2日分提供し検査センターに送り、「陰膳検査(かげぜんちょうさ)」を行いました。それは、コープふくしまさんと共同で行ったものです。そうしてゲルマニウム半導体検出器で測定をした結果、セシウム134、137ともに、1ベクレル以下で測ると不検出となりました。

 その際の食事は、近隣スーパーの産直コーナーを中心に購入した食材で作りました。心配になるような数値が出なかったことで、安心感は増しましたね。子どもが食べるものだけ、給食などで食べるものだけは、1ベクレルぐらいで計測してほしいという希望をよく聞きますが、私も同じように思っています。

開沼 まず、率直に感じたことを申し上げます。中村さんは県外避難をしていたということで、日常生活の中で、放射線を気にかけて何か特別なことをしているかもしれないと思っていました。しかし、普通に生活をされているのですね。それは、私の偏見でした。地元のスーパーで地元産のものを食べている。

 中村さんの検査は、ざっくり言えば、「福島の一般家庭で普段食べている食事に、どのくらい放射線入っているのか」というもので、セシウム134、137共に1ベクレル未満であることがわかったわけです。これは特別に2日分の料理を一食多めに作ってもらい実現したものです。

 陰膳検査と呼ばれるものの他にも、福島県内では普段から食に関するさまざまな検査が行われています。小山先生、現状の検査体制について簡単に教えてください。

小山 原発事故が起きた時は、食品の検査体制がありませんでした。一方で、4年経つなかで、たとえば農地に関する検査などが進んできています。また作物自体を測ることも始まり、米などは全袋検査をします。陰膳調査も消費地で検査し、最終確認をする。これは4段階検査で、ベラルーシなどでもやっている検査体制です。

 中村さんの陰膳検査を見ても、またコープふくしまによる全量の陰膳検査の結果を見ても、セシウム134、137が出ていません。重要なのは、産地は関係ないということです。ところが、いまだにイメージは福島です。

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開沼 博(かいぬま・ひろし) [社会学者]

1984年、福島県いわき市生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府修士課程修了。現在、同博士課程在籍。福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。専攻は社会学。学術誌のほか、「文藝春秋」「AERA」などの媒体にルポ・評論・書評などを執筆。
著書に『漂白される社会』(ダイヤモンド社)、『はじめての福島学』(イースト・プレス)、『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)、『地方の論理 フクシマから考える日本の未来』(同、佐藤栄佐久との共著)、『フクシマの正義 「日本の変わらなさ」との闘い』(幻冬舎)『「原発避難」論 避難の実像からセカンドタウン、故郷再生まで』(明石書店、編著)など。
第65回毎日出版文化賞人文・社会部門、第32回エネルギーフォーラム賞特別賞。

 


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