ニッポン放送の大人気アナウンサー、吉田尚記氏は、かつて些細な会話すらままならない「コミュ障」でした。そんな彼が、20年かけて編み出した実践的な会話の技術をまとめたのが、新刊『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』。同書を執筆する上で、常に念頭にあったのが若いときに出会った「アドラー心理学」だったと言います。
本対談では、2013年の発刊を機に日本中にアドラー心理学の大ブームを巻き起こした『嫌われる勇気』の著者・岸見一郎氏が、その吉田氏とコミュニケーションについて縦横無尽に語り合います。前編となる今回は「上手に話ができなくてもいい」という岸見氏の主張をめぐって深い対話が繰り広げられました!(構成:大越裕)
(※本稿はブックファースト新宿店の公開イベントとして行われた対談の内容をまとめたものです)
カウンセラーは
話し上手であってはいけない
1975年東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。ニッポン放送アナウンサー。2012年第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞。「マンガ大賞」発起人。株式会社トーンコネクト代表。ラジオ『ミュ〜コミ+プラス』(ニッポン放送)、『ノイタミナラジオ』(フジテレビ)等のパーソナリティを務める。マンガ、アニメ、アイドル、デジタル関係に精通し、常に情報を発信し続けている。最新著書は『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)。
吉田 今日は「アドラー心理学」の日本における「ご本尊」と言っていい、岸見一郎先生との対談ということで、ものすごく緊張しています。実は私、アドラー心理学にすごく大きな影響を受けているんですが、その話はのちほどするとして……、アドラー心理学を「青年と哲人」の問答を通じて解き明かし、現在までに70万部の大ベストセラーとなった『嫌われる勇気』ができるまでには、ずいぶん長い時間がかかったとお聞きしました。
岸見 はい。1999年に「日本ではまだアドラー心理学の入門書が出ていないので、是非書いてほしい」と編集者に言われ、そこでまず『アドラー心理学入門』という本を書きました。その後2010年3月に、その本を刊行後間もなく読んだライターの古賀史健さんが取材に来られ、「アドラー心理学入門の決定版を、ぜひ先生と作りたいんです」と言われたのです。それから企画が立ち上がるまでに2年、作り始めてから2年、トータルすると14年かかって出来た本になります。
吉田 それぐらい時間をかけて作ったからこそ、人類普遍の価値が込められた、10年20年経っても古びない一冊になったのだろうと感じます。『嫌われる勇気』を読んで「衝撃を受けた」」という方、手を上げていただけますか。……やはりたくさんいらっしゃいますね。
でも僕は、逆にこの本を読んだ時点では、大きな衝撃は受けなかったんです。なぜかといえば、僕は大学生のときにアドラー心理学に興味を抱き何冊か読んで、その時点で強い衝撃を受けて以来、自分にとってアドラー心理学が当然になってしまっていたからです。
岸見 ほう、そうだったんですね。
吉田 今回、僕が書いた『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』も、強くアドラー心理学に影響を受けています。僕自身がじつはコミュニケーション障害、いわゆる「コミュ障」だったんですが、アナウンサーの仕事を通じてそれを克服していった過程を、まとめてみました。
岸見 読みました。とても面白かったです。
吉田 ありがとうございます! よろしければ、どんなところが面白かったか、教えていただけますでしょうか?
岸見 アナウンサーという仕事をされているから、「当然、話が得意な人なんだろうな」「人と会っても緊張しない人なんだろうな」と思っていたら、ぜんぜん違っていたところです。
吉田 そうなんです。もともと僕は、すごく人見知りする人間だったんです。