現場の自主判断機能こそが
トヨタの強みの源泉

 問題解決の切り札は、かんばん方式といった手法の導入ではありません。著者は「トヨタ生産方式を導入しようという考える企業が最も陥りやすい誤りは、かんばん方式のような手法にとらわれすぎるからだ」と念押しします。

 では学ぶべきは何か。トヨタ生産方式は「単なるモノづくりの手法を考えている人が多い。実は違う。『人を育てる』のが最も重要」だと言うのです。

 著者はモノづくりの基本は4つあるとし、「全社員が役割を明らかにして、自律神経を発揮する」を4つめに据えます。

 特にこの四つ目が大切で、これができるかできないかで、本当の意味で強い生産現場に生まれ変わるかどうか決まってくる。他の三つについては、トヨタ生産方式ついて書かれた本を丹念に研究すれば、ある程度まではできる。ところが、最後の四つ目の「自律神経」の部分がどうも理解しにくいらしい。しかし、この自律神経を欠いた生産方式では、決してトヨタほどの強い生産現場にはならない。ここでいう「自律神経」というのは、現場の「自主判断機能」であり、現場の微調整機能を指す。(197ページ)

 トヨタの強さはどこからくるのか、何がすごいのか――。現場が問題を発見し、「なぜ」という問いを何度も繰り返し、現場の判断で解決していく〝組織学習能力〟〝変革する能力〟にあるのです。

『学習する組織』のピーター・M・センゲが「これから本当の意味で抜きん出る組織は、あらゆるレベルのスタッフの意欲と学習能力を活かす術を見出した組織となる」としているとおりでしょう。これは、野中郁次郎・竹内弘高氏のいう「組織的知識創造」でもあります。

 同じ著者による『トヨタ式生産力』(弊社刊)はモノづくりの手法をふんだんに盛り込んだ一冊。また『トヨタ式人間力~ものの見方・考え方と仕事の進め方』は、トヨタ式の人中心のモノづくりを実践するために欠かせない意識改革のガイドとなっています。

 バイブルの大野耐一著『トヨタ生産方式』はもちろんのこと、より理解を深めたい方にお薦めです。