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撤退するアメリカと「無秩序」の世紀
【第6回】 2015年5月7日
著者・コラム紹介バックナンバー
ブレット・スティーブンズ [WSJ外交問題コラムニスト・論説欄副編集長],藤原朝子 [学習院女子大学]

新興国の停滞と
ヨーロッパが世界経済から「脱落」する日

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1900年当時、ヨーロッパのGDPは世界のおよそ40%を占めたが、2050年には15%ほどまで落ち込む予測さえある。新興国経済がくすぶり始める中、世界経済の行く末を『撤退するアメリカと「無秩序」の世紀』の著者でもある、ピューリッツァー賞受賞・WSJコラムニストが占う。

世界経済の成長が止まった?

 グローバル経済の伝統的な成長のエンジンがくすぶり始めた。多角的貿易交渉は死にかけており、グローバル化そのものが縮小しつつある

 国際的な資本移動は二〇〇七年のピーク時以来六〇%減った。マッキンゼー・グローバル・インスティテュートの報告書は、「過去三〇年間、資本市場と金融システムは急速な拡張と多様化を遂げてきたが、いまやそのプロセス(金融深化と呼ばれる)はおおむねストップした」と指摘している。

 いわゆる新興国といわれるなかでも最大の経済国はブラジルで、ロシア、インド、メキシコ、インドネシア、トルコがそれに続く。この六カ国のGDPを合わせると九兆ドル近いが、トルストイの表現を借りると、これらの国はそれぞれに不幸だ。

 ブラジルでは、物価が経済成長(二〇一三年は約六%)の二倍のスピードで上昇している。石油や天然ガスの輸出に依存してきたロシア経済は、世界的なエネルギー(特に原油)の供給だぶつきで難しい局面に置かれている。

 インド経済は二〇一〇年に一〇%成長したが、現在は五%を切っており、二一世紀に入ってから人口が二億人以上増えた国には心もとない。メキシコは、エネルギー改革という政治的に難しい問題を乗り切り、ほかの国よりうまくやってきた。しかしこれまでに八万人の命を奪い、社会と政府のあらゆる層を腐敗させてきた麻薬戦争はいまも解決していない。

 インドネシアは外資による投資規制を強化している。トルコ経済は、不動産バブルの崩壊と、エルドアン大統領の独裁的できまぐれな統治という政治リスクに揺れている。

 投資戦略コンサルタントのジェイ・ペロスキーは、「悲惨な状況にある新興国には三つのタイプがある」として、次のように語っている。

管理失敗組……ベネズエラとアルゼンチンは通貨の切り下げに踏み切った。

過剰債務組……中国と多くのアジア諸国は、消費者金融バブルで非常に厳しい状況にある。中国は極度に不透明な信用システムの安定化にようやく乗り出したばかりだ。一つ例を挙げれば十分だろう。地方政府の債務は計一兆ドルを超えるが、このうち六〇〇〇億ドル以上が年内に返済期限を迎える。

いびつな構造組……インドネシア、ブラジル、トルコ、南アフリカをはじめとする大型の国は巨額の経常赤字を抱えており、外国からの借入に依存している。二〇一四年はこうしたバランスの悪い国のほとんどで国政選挙が予定されており、柔軟な政策を取る余地は限られている。

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ブレット・スティーブンズ [WSJ外交問題コラムニスト・論説欄副編集長]

 

ウォールストリート・ジャーナル紙外交問題コラムニストおよび論説欄副編集長。2013年にピューリッツァー賞(論説部門)を受賞。ニューヨークで生まれメキシコで育つ。シカゴ大学(学士号)とロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(修士号)で学ぶ。エルサレム・ポスト紙編集主幹(2002~2004年)。家族と共にニューヨーク在住。

 

 

藤原朝子[学習院女子大学]

 

学習院女子大学非常勤講師。フォーリン・アフェアーズ日本語版、ロイター通信などで翻訳を担当。訳書に『撤退するアメリカと「無秩序」の世紀』(ダイヤモンド社)、『ハーバードビジネススクールが教えてくれたこと、教えてくれなかったこと』(CCCメディアハウス)、『未来のイノベーターはどう育つのか ―― 子供の可能性を伸ばすもの・つぶすもの』(英治出版)など。

 


撤退するアメリカと「無秩序」の世紀

イスラム国、クリミア半島、アフガニスタン、尖閣諸島……
世界各地で頻発する危機の背景にはアメリカの驚くべき方針転換があります。
いま世界で何が起きているのでしょうか。そして、日本はどう対処すべきでしょうか。ピューリッツァー賞受賞のWSJコラムニストが、歴史とデータから世界の秩序の崩壊を丹念に分析していきます。
アメリカがもしも「世界の警察」の役割を放棄したとき、中東・ロシア・中国はいかなる行動に出るでしょうか。日本もまた世界情勢から無関係でないことを、イスラム国による後藤健二さん・湯川遥菜さん殺害で思い知った今、本連載で世界秩序の行く末を占います。

「撤退するアメリカと「無秩序」の世紀」

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