「水が少ない土地ほどブドウが甘い?」→その理由に超納得
「経済とは、土地と資源の奪い合いである」
ロシアによるウクライナ侵攻、台湾有事、そしてトランプ大統領再選。激動する世界情勢を生き抜くヒントは「地理」にあります。地理とは、地形や気候といった自然環境を学ぶだけの学問ではありません。農業や工業、貿易、流通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問なのです。
本連載は、「地理」というレンズを通して、世界の「今」と「未来」を解説するものです。経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの地理講師の宮路秀作氏。「東大地理」「共通テスト地理探究」など、代ゼミで開講されるすべての地理講座を担当する「代ゼミの地理の顔」。近刊『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』の著者でもある。

【大人の教養】地理とワインの話
皆さん、ワインはお好きですか? 私はドイツの白ワインが好きです。
ワインを生産するためには、年平均気温10~20℃が最適だといわれています。北緯30~50度、南緯20~40度はワインベルトと呼ばれていて、ワインの生産地として知られています。
原料となるブドウはどこで生産されるのでしょうか? ブドウやオリーブ、オレンジ、レモン、コルクガシといった樹木作物は、ケッペンの気候区分でいう地中海性気候下での生産が盛んです。
地中海性気候とは、夏季は小雨、冬季は温暖多雨を示す気候のことです。下図を見てください。

ヨーロッパ地中海周辺で展開する気候のため、地中海性気候といわれます。温帯気候に属する気候です。この気候下で発達した農業が二圃式農業です。
これは圃場(農場)を二分割する方式の農業で、冬作地と休閑地に二分割します。冬は温暖で降水がみられますので、農耕が可能です。ここでは小麦を作っています。冬に育つ小麦なので、冬小麦(秋に播種して越冬させ、初夏に収穫する小麦)です。
しかし、夏は基本的に少雨となることから農業が困難です。冬の間の農耕で、土壌中の水分が少なくなっていることから、水分供給のために休閑させなければなりません。
最初のうちはただ休ませていましたが、そのうち羊や山羊を放牧するようになります。羊や山羊は粗食に耐える家畜で、エサを多く必要としません。植生があまりみられない乾燥地において重宝します。
ですから、乾燥地域に多く居住しているイスラーム教徒は羊肉をよく食べています。家畜を放牧すれば糞尿を垂れますので、これが地力の回復を促してくれます。こうして、秋の播種期を待つのです。その後、気温が上がる夏の太陽の恵みを活かし、樹木作物を育てるようになりました。
地中海性気候でブドウが育つ理由
果樹は水利に恵まれたところでの生産に向いていません。必要以上に土壌中から水分を吸い上げてしまうからです。甘みを凝縮させるためには、ある程度水利に恵まれない乏水地のほうがよいのです。
扇状地で果樹栽培が盛んな理由と同じです。扇状地の中央部に扇央部では河川水が伏流して水利に恵まれません。
こうして地中海性気候下では果樹栽培が盛んに行われるようになりました。ブドウやオリーブ、オレンジ、レモンなどは地中海性気候下での生産が盛んです。さてここで、前図をもう一度見てください。
世界で地中海性気候が展開する地域はどこでしょうか? 具体的な国を挙げると、フランス、イタリア、スペイン、アルジェリア、南アフリカ共和国、オーストラリア、アメリカ合衆国、チリなどです。
世界的に有名なワインの生産地ばかりですね。アメリカ合衆国は広大な国土を有していますが、地中海性気候が展開しているのはカリフォルニア州周辺だけです。アメリカ合衆国のワインの生産量の90%がカリフォルニア産というのも理解できる話です。
地中海性気候が展開する地域でこそワインが生産される。しかし、これはあくまで相関関係なのであって、因果関係ではないことを理解しておかなければなりません。
ワインを飲みながら語るウンチクの1つに加えてみてはいかがですか?
(本原稿は『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』を一部抜粋・編集したものです)