「人口が少なくても経済が伸びる国ってあるの?」→北欧の戦略がすごすぎた
「経済とは、土地と資源の奪い合いである」
ロシアによるウクライナ侵攻、台湾有事、そしてトランプ大統領再選。激動する世界情勢を生き抜くヒントは「地理」にあります。地理とは、地形や気候といった自然環境を学ぶだけの学問ではありません。農業や工業、貿易、流通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問なのです。
本連載は、「地理」というレンズを通して、世界の「今」と「未来」を解説するものです。経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの地理講師の宮路秀作氏。「東大地理」「共通テスト地理探究」など、代ゼミで開講されるすべての地理講座を担当する「代ゼミの地理の顔」。近刊『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』の著者でもある。

人口が少なくても経済が伸びる国ってあるの?
国としてGDPを高める方法は、「人口を増やす」、もしくは「国民1人当たりGDPを高める」です。しかし人口は急激に増えませんので、国民1人当たりGDPを高めるほうが現実的です。例えば、スイスやベルギー、デンマークなどの人口小国では医療に力を入れており、3カ国の輸出統計の上位には「医薬品」が登場します。
ところで北ヨーロッパには、世界的に見ても人口が少ない国が多くあります。北ヨーロッパといえば一般的に、アイスランド、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの5カ国を指します。広義の「北ヨーロッパ」は、これにエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国を含めた8カ国を指します。
それぞれの人口はアイスランド39万人、デンマーク598万人、ノルウェー552万人、スウェーデン1054万人、フィンランド558万人、エストニア137万人、ラトビア188万に、リトアニア287万人です。これは国内市場が小さいことを意味します。
そのため、内需(国内需要)よりも外需(国外需要)を優先しています。国際競争力を高めるために、GDPに占める研究開発支出の割合が高く、知識集約型の先端技術産業の発展に力を入れています。
また、北欧諸国全体の年少人口割合が16.3%、老年人口割合が20%を超えるほど(20.6%)、少子高齢化が進んでいます。
労働力不足は国の経済成長にとってマイナス要因です。そのため、1人当たりの生産性を高める必要があります。
人口が少ないということは、産業構造の転換スピードが速く、それに合わせて就業機会の構造が変化します。1970年代には製造業のシェアが高かったのですが、1990年代からは先端技術産業に従事する労働者を増やしました。
北欧のシリコンバレーの成功例
シスタという街があります。シスタはスウェーデンの首都、ストックホルムの中心部から地下鉄で15分の場所にあり、元々は軍用地でした。1970年代より企業の進出が始まり、通信機器メーカーのエリクソンはITとラジオの研究開発を始めました。
1988年になると、エリクソンは第2世代移動通信システムであるGSM(Global System for Mobile Communications)を開発しました。GSMは世界の多くの国で使用されていて、実質的に無線通信方式の世界標準技術となっています。
エリクソンは一時期、携帯電話端末の製造も手がけていましたが、隣国フィンランドのノキアとのシェア争いから撤退し、通信事業に特化しています。
エリクソンだけでなく、IBMやマイクロソフトなどもシスタに北欧事業の拠点を構え、スウェーデン王立工科大学やストックホルム大学の研究機関も進出しています。シスタが「北欧のシリコンバレー」と呼ばれる所以です。
これらの理由により、スウェーデンの移民は、いわゆる「高度人材」と呼ばれる人たちが非常に多いことで知られています。
北欧諸国でインターネットが普及している理由
スウェーデンには、日本よりも大きな国土に1000万人そこそこの人たちが暮らしています。そのため人口密度が低く、集落間に非常に大きな物理距離があります。数十kmにもわたって送電線を引くのは、非常にコストがかかるため、無線によるインターネットに力を入れるのは必然だったかもしれません。このように北ヨーロッパ諸国には、無線によるインターネット普及率の高い国が多いのです。
(本原稿は『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』を一部抜粋・編集したものです)