ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
撤退するアメリカと「無秩序」の世紀
【第9回】 2015年5月19日
著者・コラム紹介バックナンバー
ブレット・スティーブンズ [WSJ外交問題コラムニスト・論説欄副編集長],藤原朝子 [学習院女子大学]

冷戦以後、「西」側諸国は弱体化している?
変わりゆく世界の軍事バランスを考える

1
nextpage

30年前と比較すると、世界の海をパトロールする米軍の艦艇は半減している。社会保障費の増大や、際限のないテロとの戦いに「撤退」ムードを強める米国と、同じように軍縮を続ける欧州。世界の軍事バランスを『撤退するアメリカと「無秩序」の世紀』の著者でもある、ピューリッツァー賞受賞・WSJコラムニストが分析する。

弱体化する「西」側国家
NATO諸国の軍事の現状とは

 現在のアメリカ軍のプレゼンスは近年で最も縮小している。1964年、アメリカ海軍は859隻の艦艇で世界の海をパトロールしていた。それが1984年には557隻になり、現在は289隻しかない。

 1984年と2014年の違いの大部分は、冷戦の終結によって説明できる。だが、いまはもはや冷戦終結後の穏やかな時代ではない。たとえオバマ政権がそうであるかのように振る舞っていても、現実は違う。アメリカは世界的なテロの脅威と、さまざまな主要国からの新たな挑戦を突きつけられている。さらに悪いことに、世界におけるアメリカ軍のプレゼンスは、第二次世界大戦前の水準まで縮小している。

 ペンタゴンはここ数十年、コストや規模や技術的な可能性を忘れて、質的な軍事的優位を確保することばかり考えてきた。このため海軍は、超ハイテクのシーウルフ級原子力潜水艦を29隻調達するはずが3隻しか調達できなかった。空軍はF22戦闘機650機の調達を計画していたが187機で終わった。宇宙時代に対応するDDG1000ズムウォルト級ミサイル駆逐艦は、32隻を調達する計画だったが、3隻建設しただけで終わった。多用途性を備えたF35戦闘機の開発の遅れ、開発コストの大幅な上昇、そして保守整備上の課題は、ほとんど伝説となっている。

 全部合わせると、ペンタゴンは21世紀に入ってからの10年間で中止プロジェクトに460億ドルも費やした。最終的な配備数が少なすぎてその莫大な開発費用を正当化できないか、実戦に効果がないプログラムにも数十億ドルを費やした。

 重要なのは、架空の戦争のために超高額・超最先端・超ハイテク兵器を少量確保することではない。より安価だが、応用範囲が広く、長期間使える兵器を大量に補充することだ。言い換えるとF35は減らして、改良したF15やF18を増やすのだ。ペンタゴンは軍事革命ではなく軍備を進化させる重要性を学び直す必要がある。

 割れ窓理論に基づく警察活動を機能させるには、地元の協力が必要だ。NATO憲章は、加盟国にGDP比2%以上の軍事支出を義務づけている

 ところが2014年にこの最低ラインをクリアしたのは、アメリカ、イギリス、ギリシャ、エストニアの4ヵ国だけだった。フランスは1.9%、トルコは1.8%、ドイツは1.3%、ポーランドは1.8%、スペインは0.9%どまりだ。冷戦終結時、ドイツは36万人の兵力と、装備の整った12師団を有していた。現在、ドイツのGDPは3兆4000億ドルに上るが、兵力は6万2000人、戦車は225両、攻撃ヘリコプターは40機しかない。

1
nextpage
スペシャル・インフォメーションPR
ダイヤモンド・オンライン 関連記事
自分の時間を取り戻そう

自分の時間を取り戻そう

ちきりん 著

定価(税込):本体1,500円+税   発行年月:2016年11月

<内容紹介>
生産性は、論理的思考と同じように、単なるスキルに止まらず価値観や判断軸ともなる重要なもの。しかし日本のホワイトカラー業務では無視され続け、それが意味のない長時間労働と日本経済低迷の一因となっています。そうした状況を打開するため、超人気ブロガーが生産性の重要性と上げ方を多数の事例とともに解説します。

本を購入する
ダイヤモンド社の電子書籍
(POSデータ調べ、11/20~11/26)


注目のトピックスPR


ブレット・スティーブンズ [WSJ外交問題コラムニスト・論説欄副編集長]

 

ウォールストリート・ジャーナル紙外交問題コラムニストおよび論説欄副編集長。2013年にピューリッツァー賞(論説部門)を受賞。ニューヨークで生まれメキシコで育つ。シカゴ大学(学士号)とロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(修士号)で学ぶ。エルサレム・ポスト紙編集主幹(2002~2004年)。家族と共にニューヨーク在住。

 

 

藤原朝子[学習院女子大学]

 

学習院女子大学非常勤講師。フォーリン・アフェアーズ日本語版、ロイター通信などで翻訳を担当。訳書に『撤退するアメリカと「無秩序」の世紀』(ダイヤモンド社)、『ハーバードビジネススクールが教えてくれたこと、教えてくれなかったこと』(CCCメディアハウス)、『未来のイノベーターはどう育つのか ―― 子供の可能性を伸ばすもの・つぶすもの』(英治出版)など。

 


撤退するアメリカと「無秩序」の世紀

イスラム国、クリミア半島、アフガニスタン、尖閣諸島……
世界各地で頻発する危機の背景にはアメリカの驚くべき方針転換があります。
いま世界で何が起きているのでしょうか。そして、日本はどう対処すべきでしょうか。ピューリッツァー賞受賞のWSJコラムニストが、歴史とデータから世界の秩序の崩壊を丹念に分析していきます。
アメリカがもしも「世界の警察」の役割を放棄したとき、中東・ロシア・中国はいかなる行動に出るでしょうか。日本もまた世界情勢から無関係でないことを、イスラム国による後藤健二さん・湯川遥菜さん殺害で思い知った今、本連載で世界秩序の行く末を占います。

「撤退するアメリカと「無秩序」の世紀」

⇒バックナンバー一覧