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黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

転職後に待っていたのは人材の墓場!
「中小企業=やり甲斐」という危険な幻想

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第15回】 2015年5月19日
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 今回は、大手メーカーから中小のメーカーに転職した、30代半ばの男性を紹介したい。世間では、今なお「中小企業は実力主義で、やり甲斐がある」「結果を出せば認められる」と信じ込む人がいる。この男性に取材をすると、むしろその逆であることを思い知らされる。あなたの職場には、このように「組織のタテマエとホンネ」を見抜けない人がいないだろうか。


本当にこの人は課長なのだろうか?
明らかに能力が低い上司に牛耳られ

「中小企業は実力主義でやり甲斐がある」と、いまだに信じている人がいる。しかし、中小企業のホンネとタテマエは、そんな生易しいものではない
Photo:vadymvdrobot-Fotolia.com

 「桜井君は、部署の秩序を乱すことなく、平野さんの指示をきちんと聞いて、行動をとってもらいたい」

 会議の場でこう言い放ったのは、4月に総合企画部の部長になったばかりの大沢(48歳)だった。桜井(36歳)は反論しようとしても、声が出ない。身に覚えのない指摘に呆れ返ってしまったのだ。

 4月中旬、大規模な人事異動が行われた後、初の会議となった。とはいえ、社員は200人弱であり、そのうち30~40人が異動になったに過ぎない。それでもこの会社では、「大規模」と社員間では大きな噂となっていた。些細なことが噂となるのだ。常に「現状維持」「平穏」を求める社風が浸透している。

 会議には、総合企画部の部員20人ほどが参加した。部は、企画課や広報課、IT推進室の3つのセクションで成り立つ。

 企画課から広報課に異動となった桜井は、会議が始まる前、嫌な予感がした。企画課のときの上司だった課長の大沢がこの4月に、総合企画部の部長になった。20人のトップに立つのである。しかも、執行役員を兼務する。

 一方で、桜井は36歳という年齢もあり、まだ非管理職である。この会社では、課長になるのは早くとも38歳だ。桜井は仕事のレベルに限って言えば、大沢よりもはるかに高いと自負している。心の奥深くには、上司である大沢をバカにしているものがあった。

 「大沢は部長となり、自分はヒラのまま……。なぜ、こんな扱いになるのか……」

 そんな桜井の心を見透かすように、大沢は部員20人の前で忠告をした。自らが出世し、権力を握ったことを確かめるような口調だった。

 桜井は、特に「部署の秩序を乱すことなく」「平野さんの指示をきちんと聞いて」といった言葉にひっかかりを感じた。「平野」とは、広報課の課長のことであり、桜井の新たな上司である。

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吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

 ここ10数年の間に社会環境が大きく変わり、人々のホンネとタテマエに対する価値観が揺らぎ始めている。それを具現化しているのが、今の企業の職場ではないだろうか。これまでは、ホンネとタテマエが絶妙にバランスしながら、人間関係が維持されてきた。しかし、企業社会において生き残り競争が激化し、「他人より自分」と考えるビジネスパーソンが増えるにつれ、タテマエを駆使して周囲を蹴落とそうとする社員が増えている。

 誰もが周囲を慮らなくなり、悪質なタテマエに満ち溢れた職場の行きつく先は、まさしく人外魔境。そこで働く社員たちは、原因不明の閉塞感や違和感、やるせなさに苛まれながら、迷える仔羊さながらに、次第に身心を蝕まれて行く。この連載では、そうした職場を「黒い職場」と位置づけ、筆者がここ数年間にわたって数々のビジネスパーソンを取材し、知り得たエピソードを基に教訓を問いかけたい。

「黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史」

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