「幸せ食堂」繁盛記
【第五回】 2015年6月9日 野地秩嘉

上海の家庭料理に込められた
“幸せのエネルギー”を中野で堪能

上海出身の夫婦が営む店

 おいしいものを食べると幸せな気分になる。そして、作っている人自身が幸せだったとしたら、料理の味はなおさらおいしくなる。

 中野にある中華料理の店「蔡菜食堂」は幸せな夫婦がふたりで切り回している店だ。私たちはふたりが発する幸せのエネルギーを感じながら、食事することができる。

上海の家庭料理の店「蔡菜食堂」を切り回すのは、同地出身のご主人、蔡才生(サイゼイセイ)さんと、妻の王梅玉(オウマイヨク)さん

 蔡菜食堂で出すのは上海の家庭料理だ。同地出身のふたり、蔡才生(サイゼイセイ)と王梅玉(オウマイヨク)夫妻が子どもの頃に食べていた、懐かしい味のおかずが並んでいる。

 たとえば…。揚げピーナッツ300円。お麩と木耳の醤油煮550円。トマト卵炒め950円。長ねぎ豚バラ肉ピリ辛炒め1000円。スペアリブの黒酢ソース炒め1200円。いずれも上海の人なら誰もが「ああ、うちでもよく作る」という料理だ。

「蔡菜食堂」のメニューから。竹の子と豚肉のスープと、お麩と木耳の醤油煮。ここで出てくる料理は、ご夫妻が子どもの頃に食べていた、懐かしい味のおかずが中心。「中国人の食事には必ずスープが一種類、入ります。身体を温めるからです」とご主人

 一方、どう考えても上海料理とは違うものもメニューにある。山東省肩ロースの焼き豚600円、アンチョビカレーポテトサラダ550円、鶏のレバーパテ700円、ナンプラーとアンチョビの海老入り焼きそば900円。

「これはご主人が考えたのですか?」

 そう訊ねたら、蔡さんは首を振った。

「恩人の和田さんが教えてくれたもの。メニューに出せば売れるから、やってみなよって」

 和田さんとは和田利弘。銀座の焼き鳥店「バードランド」の主人である。 

この連載記事のバックナンバー
トップページへ戻る

野地秩嘉 1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。出版社勤務、美術プロデューサーなど を経て、ノンフィクション作家に。食や美術、海外文化の評論、人物ルポルタージュ など幅広く執筆。近著に、「TOKYOオリンピック物語」「イベリコ豚を買いに」「打 ち合わせの天才」「アジア古寺巡礼」「アジアで働く いまはその時だ」など。


「幸せ食堂」繁盛記

この連載は、味がよく、サービスも悪くなく、値段はリーズナブルで、しかも、できればハイサワーやホッピーを置いている店のグルメガイドだ。ここで紹介される店は、金持ちの社長やグルメ評論家はまずいない。著者は、そういう店を「勤労食堂」「国民酒場」と呼ぶ。そこでは客が微笑しながら食べている。ほほえみながら食べている人と一緒にいることは至福だ。人生の幸せは勤労食堂もしくは国民酒場にある。

「「幸せ食堂」繁盛記」

⇒バックナンバー一覧