創続総合研究所

争いの引き金は、お金ではなく感情
~生きているうちに遺産の話をするのは、縁起が悪い!?

「ネガティブメッセージ」が
奏功することもある

八木美代子
ビスカス代表取締役

八木 その付言がなかったら、相続はまったく別の様相を呈していたかもしれませんね。

小林 そうかと思うと、遺言書の付言事項で、相続人に対してわざわざ手厳しいことを書いたお父さんもいましたね。何億円という財産の大半を長男に譲り、次男には雀の涙ほどしか渡さない、というのがお父さんの腹づもり。その理由は、「次男が事業を始める時に資金援助した」「その事業が失敗したのに、リベンジの気概が見られない」というものでした。資金援助といっても1000万円程度で、金額だけみれば、明らかに「不平等な相続」でした。
 で、その気持ちをストレートに遺言書の付言事項に書きました。「会社を潰したのは仕方ない。だが、それからいつまで経ってもやり直そうとしないではないか。お前に遺産をやらないのは、そのためだ」と。その遺言書を目にした時の、次男の方の言葉は印象的でした。「親父がそういうふうに自分を見て、ある意味苦しんでいたとは思わなかった」とおっしゃったのです。この相続も、すんなり決着でした。

八木 遺産を譲らないのは、お前が憎いからではなくて、将来を心配するから――。そんな気持ちが伝わったのでしょう。でも、遺言書にそんなことを書かれて、さぞやショックだったでしょうね。

小林 基本的には、偏った遺言を残すのはやめたほうがいいんですが、本音をしっかり付言で伝えることによって、どちらとも成功した事例ですね。
 逆に、付言が争いの種になるケースもあります。最近も「次女が、大学生の時に借りたお金を未だに返していない」という理由で、「次女には遺産を渡さない」という遺言書を作ったお母さんがいました。我々からすると、「親子だし、少額だからいいんじゃないか」と思えるのですが、本人は裏切られた気持ちなんでしょう。
 ただ、ちょっと感情に任せて書いてしまったのかな、という気はしますね。ご本人はまだ存命していますが、いざ遺言書が開かれた時に、娘さんの受けるショックは、いかばかりのものか。それが争いを生む可能性もかなりある、と心配しています。
 やはり、付言事項には相続人に対してポジティブなことを書く、というのが効果的です。「ありがとう」「楽しい人生だった」という感謝の気持ちや、相続させる遺産が少ない場合には、その理由とともに、「申し訳ない」「我慢してください」といった言葉を添えるべきでしょう。それがあるとないとでは、受け取る側の気持ちもぜんぜん違ってきますよ。“ショック療法”が効くのは、例外中の例外だと思ってください。

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八木美代子 [株式会社ビスカス代表取締役]

早稲田大学卒業後、リクルート入社。1995年に株式会社ビスカスを設立。税理士を無料でご紹介するビジネスモデルを日本で初めて立ち上げ、現在まで10万件以上のマッチングを実現。相続に強い税理士のみを集めたサイト「相続財産センター」を運営し、相続コーディネーターとしても業界ナンバーワンの実績を誇る。著書に『相続の現場55例』(ダイヤモンド社)、『相続、いくらかかる?』(日経BP社)、『相続は『感情のもつれ』を解決すればお金の問題もうまくいく』(サンマーク出版)などがある。
株式会社ビスカス

 


相続の現場~争いから学ぶハッピー相続術

相続の別名は、「争続」。仲の良かった兄弟姉妹が親の遺産を前に骨肉の争いを演じるというのは小説やテレビドラマの中だけの出来事ではないようです。諍いの中心はもちろん「お金」。ですが兄弟姉妹には、他人がうかがい知ることのできない「本音」「思い」があるようで……奥底にある「心の綾」を解きほぐすと争いから一転、分かりあえるのが家族。そうした「ハッピー相続」の例を解説します。

「相続の現場~争いから学ぶハッピー相続術」

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