ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
田岡俊次の戦略目からウロコ

南沙埋立て問題で退路が狭まった米中緊張の行方

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
【第52回】 2015年6月11日
著者・コラム紹介バックナンバー
1
nextpage
中国が埋立てを進める南シナ海の岩礁(米海軍偵察飛行による空撮) Photo:U.S.Navy/Reuters/aflo

中国が推し進める南シナ海での岩礁埋立てに対して、米国は「即時中止」を求める姿勢を崩さない。先日のG7サミットで安倍首相が主唱した「埋立て反対」合意により、お互い譲歩がさらに難しい状況となった。衝突コースに入った米中対立はこの先どこへ向かうのか。

 米国は「財政再建」「輸出の拡大」を急務の目標とし、経済関係が絶大な中国に対してはContainment(封じ込め)をはからず、Engagement(抱き込み)を目指す政策を取ってきた。尖閣諸島問題での日中の対立に引き込まれては迷惑だから「日米防衛協力のための指針」(Guidelines)を改定することで合意した2013年10月の外交・防衛担当閣僚会議(2+2)後の共同発表では、日本側が準備した草稿にやたらにあった「中国」「東シナ海」の語句を米国側がほぼ全て削除し、唯一残ったのは「中国に建設的役割を果たすよう促す」という個所だけだった。

 昨年4月訪日したオバマ大統領は安倍首相との会談後の共同記者会見で、中国に対して“Keep the rhetoric low”(口を慎め)と安倍首相に忠告し、日中関係改善を求めたことを明らかにした。新たな日米防衛協力の指針は今年4月27日に最終合意して発表されたが、米国側は事前に中国に内容を説明していたことも判明した。日本のメディアは指針改定で「中国を牽制」と報じることが多いが、牽制すべき相手に事前に米国側がご説明に伺うのでは牽制にならない。

 米国は以前から「日米同盟で日本の軍事大国化を防ぐ」とアジア諸国に説き、「新たな指針は中国を対象とするものではない」と言っていたから、そうした説明を改めて中国に行った、と考えられる。

 中国との関係改善を米国に迫られた安倍首相は、昨年後半からその方向で努力し、11月に習近平主席との会談に漕ぎ付けた。今年1月には不測の事態を防ぐための日中「海上連絡メカニズム」実現のため、海上自衛隊と中国海軍、海上保安庁と中国海警局の協議も再開された。安倍首相は2月12日の施政方針演説で中国と「今後様々なレベルで対話を深め、安定的な友好関係を発展させ、国際社会の期待に応えて参ります」と述べた。「国際社会」は「アメリカ」とほぼ同意語だ。

南沙諸島埋立てで一転、
米中は衝突コースに

 ところが米国の対中姿勢は南沙諸島のファイアリー・クロス礁(中国名・永暑礁など)で中国が進めている埋立て、飛行場建設を巡って、少なくとも表面上は、一変した。この工事は昨年から米国で報道され、米海軍も注目し、共和党タカ派議員が中国を非難していたが、5月13日の「ウォール・ストリート・ジャーナル」は「A・カーター国防長官は海軍の哨戒機、艦艇を人工島の周辺12海里以内に入らせることを含む選択肢の検討を命じた」と報じた。

1
nextpage
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR
【デジタル変革の現場】

企業のデジタル変革
最先端レポート

先進企業が取り組むデジタル・トランスフォーメーションと、それを支えるITとは。

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]

1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、編集委員、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。


田岡俊次の戦略目からウロコ

中国を始めとする新興国の台頭によって、世界の軍事・安全保障の枠組みは不安定な時期に入っている。日本を代表する軍事ジャーナリストの田岡氏が、独自の視点で、世に流布されている軍事・安全保障の常識を覆す。さらに、ビジネスにも役立つ戦略的思考法にも言及する。

「田岡俊次の戦略目からウロコ」

⇒バックナンバー一覧