MERS感染拡大を受け、韓国・ソウル市のイベント会場などでは、サーモグラフィーによる来場者の体温チェックが行われている
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隣国・韓国で降って湧いた新型感染症、中東呼吸器症候群(MERS〈マーズ〉)の感染拡大。日本への上陸可能性も取り沙汰されるが、その影響は、すでに苦境に立たされていた韓国経済のみならず、日本でも旅行会社を中心に暗い影を落とし始めている。(「週刊ダイヤモンド」編集部 宮原啓彰)

「旅行シーズンまでには何とか終息してほしい」──。国内旅行大手の幹部は、燃え盛る“対岸の火事”に危機感を募らせる。

 韓国で猛威を振るう中東呼吸器症候群(MERS〈マーズ〉)。MERSは、2012年に見つかったウイルス性の新型感染症だ。これまで、中東を主な感染地域とし、03年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS〈サーズ〉)のコロナウイルスに似たMERSコロナウイルスが病原体だ。ワクチンや治療薬はなく、致死率は約40%とされる。

 韓国では先月初め、中東から帰国した男性会社員が発症。だが、MERSと診断されないまま、病院を変えながら通院したことで、医療関係者や通院・入院先の患者が次々と感染した。韓国政府の後手に回った対応も相まって、感染者数は日々拡大、6月11日現在で122人、死亡者数は9人を数えている。隔離対象者数は10日に、前日から547人増の3439人となるなど、韓国は目下、パニックともいえる状況に陥っている。

 一方、日本では、厚生労働省が9日、国内上陸に際しての対応策を話し合う初の専門家会議を開いた。会議では、MERS発症者と接触した者で、発熱などの感染が疑われる症状がある場合は指定病院に入院。また、症状がない場合でも、状況により健康状態を保健所に報告する「健康観察」と外出自粛を求めることなどを決めた。

「エボラ出血熱と同じくらい細心の対策が必要だ」。会議メンバーの1人、東北大学医学部の賀来満夫教授はMERS対策への“心構え”として、こう警告を発する。

「韓国の感染が医療機関内に限定されているからといって、油断は禁物だ。韓国は人的交流が最も活発な国の一つで、日本への上陸を否定する材料はない」

 韓国保健福祉部の対策本部は8日、最初の患者から多数の二次感染者を出した平沢聖母病院で新たな感染者が出ていないことなどをもって、「第1次の流行は終息した」と発表するなど、韓国政府は国内外で高まる不安と政権への不満を払拭しようと躍起だ。

 だが、9日から世界保健機関(WHO)が韓国政府との共同現地調査を開始。日本の感染症対策関係者からは「WHOは本当に、韓国の(第1次の流行の終息という)判断が正しいのかを含めて調査することになる。朴槿恵大統領が10日、(14日から予定されていた)訪米を延期したのは、韓国側にも感染のさらなる拡大への懸念が消えていないことの表れではないか」という疑念の声も出る。