LINE(株)CEOを退任後、C Channel(株)を立ち上げた森川亮さんの初著作『シンプルに考える』の発刊を記念して、(株)ディー・エヌ・エー創業者である南場智子さんとのトークセッションが行われた。テーマは「結果を出す人の思考法~すごい人はなぜ、すごいのか?」。南場さんのベストセラー『不格好経営』『シンプルに考える』から引用した言葉をもとに語り合っていただいた。(この連載は、6月4日に東京カルチャーカルチャーで行われた対談イベントのダイジェスト版です。構成:田中裕子)

任せたら口を挟まない。
口を出すのは辞めてもらうとき

 ――森川さんは、『シンプルに考える』のなかで、「現場はひたすらユーザーのために全力を尽くす。経営は、現場が仕事にとことん集中できる環境を守る」とおっしゃっています。経営者がなすべきことは、端的に言うとどのようなことだと考えますか?

森川 経営者と会うと、それぞれいろいろな課題を持っていらっしゃいます。でも、突き詰めると「ヒット商品を出すかどうかで経営環境は変わる」というのが僕なりの考えなんです。

南場 ああ、たしかにね。

森川 では、どうすればヒット商品を出せるか? 社長のためとか評価のためではなく、お客様のために全力を尽くすしかないんですよね。だから、社員にその仕事をやってもらう代わりに、それ以外の仕事は経営者がやる。そういう考え方なんです。

南場 発想が萎縮しない、ユーザーに100%向き合える環境をつくるのは、社長だけではなくてマネジャーの仕事でもあるよね。

森川 ええ。だから、中間マネジャー層が自分の出世を考えている組織からは、絶対にヒット商品は出ないと思います。

――現場が自由に力を発揮するためには、権限を現場に手渡す必要があるのかな、と思います。ところが、『不格好経営』のなかでは「最も難しいのが『信じて任せる』ということ。論理ではなく、勇気が必要だからだ」とあります。権限移譲について、どうお考えですか?

南場 より大きく、より早く成果を出すためには、社員を信じて任せるしかありません。それが、中長期的にも強いチームをつくるからです。でも……上手に任せるのって本当に難しいよね。

森川 優しいマネジャーが「あいつを育ててやりたいから任せる」と言うのと、厳しいマネジャーが「自分が責任をとるから任せる」と言うのでは緊張感が違います。僕からしたら、前者の「育てたいから任せる」なんてとんでもないことです。

南場 そう。任せるって、怖いことなんですよ。DeNAにも、業績が低迷した時期はあります。そういうキツいときは、任せた翌日から心配になったり、口を出したくなったり、確認したくなったり、「信頼してないオーラ」が出たり……(笑)。でも、そこは任せた側がぐっと歯を食いしばるところで。

森川 ええ、ええ。

南場 一度任せたら、あとはノータッチ。あとは、万一コケたときにどう修正するのか考えるしかありません。

森川 それは、トップしかできない仕事ですよね。僕も、「任せたら口を挟まない。口を出すのは辞めてもらうときだ」と割り切るようにしています。

南場 へえ、すごい!

森川 結果が出るまでやってみないと、最終的にどう転ぶかわからないじゃないですか。それに、人それぞれ、やり方と考えがあるでしょう? LINEはとにかく変わった人が多かったので(笑)、やり方も千差万別。だから、任せたら黙っておいて、うまくいかなさそうだったらそっとバックアップを用意しておく、というスタンスでした。

南場 やっぱり森川さんもコケたときの方針は決めておくんですね。

森川 ええ、任せると無茶ぶりは違うと思うんですよ。無茶ぶりはただの無責任だけど、任せるのは「ここまでだったらできるだろう」というコミットや納得のうえにあるはずで。

南場 そうそう、相手を見ながらね。任せるうえで大切なのは、自分の知見と関与がどれだけ事業に有益かを見極めること。現場のみんなが私よりもその事業について理解しているときは、思い切ってバーンと任せることが多いかな。

森川 僕は音楽をやっていたので、権限委譲についてはよく音楽になぞらえて考えるんです。ジャズとクラシックでは、演奏者、つまりプレイヤーへの任せ方が違います。ジャズはプレイヤーに大胆に任せる音楽、クラシックは指揮者や楽譜がコントロールする音楽。どちらが良い悪いではなく、それぞれ合う環境があるんだと思います。

南場 へえ、音楽で考えたことはなかったなあ。おもしろいですね。