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医療・介護 大転換

農家で認知症ケア――オランダで広がる「農業+介護」

浅川澄一 [福祉ジャーナリスト(前・日本経済新聞社編集委員)]
【第34回】 2015年7月8日
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自然に囲まれた農場で
認知症高齢者が作業

 高齢者ケアの最も大きな課題の一つは認知症ケアである。認知症は、発祥の詳細な原因が未だに解明されず、従ってその根治薬もない。高齢者の増大と共に、認知症者は増えていく一方である。欧米各国とも頭を悩まし、今や「国家戦略」として位置づけ、国を挙げて向き合い出した。

 在宅医療・介護が欧州で最も充実しているオランダでは、10年以上前から様々な政策が繰り出されている。その一方で、民間の自主的な運動も盛んだが、中でも最近注目を集めているのが「農場ケア」である。

 野菜や果物の農場、牛や羊を飼う畜産農家などが認知症高齢者を受け入れ、緑豊かな自然な環境中で共に過ごし、時には肥料や餌やり、収穫、清掃などいろいろの農作業を営む。自然の中で生活することで認知症の進行を遅らせ、施設入所することなく日々の生活を送ることができるという。

 筆者はこの4年前から毎年、オランダの高齢者ケアの現場を視察しており、農場ケアの現場もいくつか訪問してきた。事例を直に見ることで、「農場ケア」が急速に広がりつつあることが実感できた。

 日本でも、同様の動きが期待されそうだ。知的障害者などの働く場として農業との連携は見られるが、認知症高齢者のケアの手法としても大いに参考になる可能性が高い。

ブーラ農園の看板

 オランダの中央部、チーズの生産地として知られるゴーダ市の近郊。水路が行き交うこの国独特の農村の中に、手書きで「ゾルフブールデレイ・ヘット・ブーラ・エルフ」(ケア農場・ブーラの農園)と書かれた木の看板を出す農家がある。草原に牛が寝そべる微笑ましい絵が添えられ、温かい雰囲気に思わず引き込まれる。

 正面にサンルームを張り出したとんがり屋根の建物がある。元は飼料を蓄えるサイロだったが改装してデイルームに仕立てた。その中は、普通の家庭よりやや広いLDK(リビング・ダイニング・キッチン)のワンルーム。昼前に訪ねると、男女同数の6人の認知症高齢者が、半円形に並べられたゆったりしたソファで寛いでいる。

 「朝のコーヒータイムの後に、今朝の朝刊を広げて世の中で何が起きているかを話し合いました。これから、みんなで散歩に出ようとしているところです。散歩といってもヤギに餌をやったり、温室で掃除もします」

ヤギに餌をやるブーラさん

 ソファの後ろから説明するのは、この農場を夫と運営しているコリー・ブーラさん(51歳)。この日のスタッフは、介護のプロと研修生、それに調理を担当男性ボランティアの3人。抱える総スタッフは介護職が5人、研修生が4人、それに10人のボランティアが加わる。

 利用者は、最高齢の92歳の女性や元大工さん、元自動車修理工など近在の住民である。朝9時から午後4時まで過ごす。週4日開いており、日本のデイサービスにあたる。昼食は一緒にとるが、入浴はない。家族が送ってくる人やボランティアのマイカーに頼る人、あるいはタクシーで来る人もいる。タクシー代は、介護保険にあたるAWBZでまかなわれる。

ブーラ農園の乳牛たち

 隣の大きな屋根の建物を覗くと、乳牛が両サイドにズラリと顔を揃えている。絞った乳を出荷するのが農家としてのブーラさん夫妻の仕事だ。

 「55頭の乳牛によるミルクの収入と介護保険からの収入がちょうど半々です」とコリーさん。この自宅とは別に、近くの修道院を借りてもうひとつのデイサービスも運営している。

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浅川澄一 [福祉ジャーナリスト(前・日本経済新聞社編集委員)]

あさかわ・すみかず/1948年2月東京都中野区生まれ。東京都立西高校から慶應義塾大学経済学部に。1971年日本経済新聞社に入社。小売り・流通業、ファッション、家電、サービス産業などを担当。87年に月刊誌『日経トレンディ』を創刊、初代編集長を5年間勤める。93年流通経済部長、95年マルチメディア局編成部長などを経て、98年から編集委員。高齢者ケア、少子化、NPO活度などを担当。2011年2月に定年退社。同年6月に公益社団法人長寿社会文化協会常務理事に就任。66歳。

 


医療・介護 大転換

2014年4月に診療報酬が改定され、ついで6月には「地域医療・介護総合確保推進法」が成立した。これによって、我が国の「医療」「介護」大転換に向けて、第一歩が踏み出された。少子高齢化が急速に進む中で、日本の社会保障はどう大きく変革するのか。なかなかその全貌が見えてこない、医療・介護大転換の内容を丁寧に解説していく。

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