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生活保護のリアル~私たちの明日は? みわよしこ

下流老人の新幹線焼身自殺は、生活保護で防げたか

みわよしこ [フリーランス・ライター]
【第16回】 2015年7月17日
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国内外に大きな衝撃をもたらした、新幹線車内での高齢者の焼身自殺。背景には、低年金による生活苦があったと伝えられている。もしも生活保護が利用されていれば、無関係な乗客1名を犠牲にした惨事は防げたのだろうか?

新幹線車内で焼身自殺したのは
見知らぬ「ご近所さん」だった

東海道新幹線で起きた焼身自殺テロ事件。一体なぜ、犯人の老人はこのような事件を起こさざるを得なかったのか

 2015年6月30日、午前11時30分ごろ、私はツイッターで、東海道新幹線に乗っていた知人の「新幹線が止まってしまった」というツイートを目にした。知人は生活保護申請の同行など、貧困問題に関する地道な活動を続けている法律家である。まもなく「のぞみ」車内で火災という情報、「焼身自殺によるものらしい」という情報が伝わってきた。知人が乗っていた新幹線は、火災が起こった新幹線の後続の「のぞみ」だった。新幹線車内に数時間缶詰にされた知人は、その日に予定されていた貧困問題の会議を欠席することになった。

 焼身自殺を行った71歳の男性は、何の関係もなかった52歳の女性まで犠牲にした。間もなく、犯人と事情に関する数多くの報道が行われた。事件直後、犯人は低年金による生活苦で不満をこぼしていたと伝えられた。

 いわゆる「下流老人」による犯罪の背景には、しばしば貧困と社会的孤立がある。私が最も驚いたのは、低年金による貧困という点ではなく、犯人が東京都杉並区・西荻窪地域に長年住んでいたことだ。犯人は、この地域に住み続けて26年目になる私の「ご近所さん」であった、ということになる。

Hさんが住んでいたアパート近辺。JR西荻窪駅から徒歩7分程度の一帯には、緑豊かな公園・余裕のある暮らしぶりを感じさせる邸宅・さまざまなタイプのアパートが混在しており、銭湯も残っている

 西荻窪地域には、比較的濃密な地域コミュニティがあり、「西荻窪ムラ」と揶揄されることもある。この地域では、問題を抱えた人々も、深刻な孤立には至りにくい。何らかの形で「助けて欲しい」というサインを出せば、近隣の誰かを一時的に困らせること程度はあっても、たいていは地域コミュニティのどこかに居場所を見つけられることが多い。そういう地域の人が、いきなり、新幹線車内で焼身自殺?

 首を傾げていた私は数日のうちに、報道によって、犯人が地域に豊かな人間関係を持っていたことを知った。地域の野球クラブでも活躍していたという。

 「犯人が長年住んでいたアパートの前に佇んで、手を合わせている人がいた」

 という話も、地域の伝聞で漏れ聞いた。

 犯人は、「家賃4万円」と伝えられるアパートに住んでいた。家主に交渉して減額してもらった結果であるという。そのアパートは、私がときどき行く豆腐屋の近くにある。最後に乗った新幹線の切符を買ったと伝えられるJR西荻窪駅の「みどりの窓口」も、ガソリンを買ったと伝えられるガソリンスタンドも、私が日常的に生活する範囲にある。たぶん、駅前のスーパーですれ違い、駅前の大衆居酒屋で同じ時間帯に店内にいた程度の関係はあるのだろう……。

 最初は「とんでもない重大犯罪」と認識していたのだが、詳細を知るにつれ、また考えをめぐらせるにつれ、「平穏な地域生活を共にしていたご近所さんの、突然の重大犯罪」という感覚に変わっていった。以下、犯人を「Hさん」と記すことをお許しいただきたい。

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みわよしこ [フリーランス・ライター]

1963年、福岡市長浜生まれ。1990年、東京理科大学大学院修士課程(物理学専攻)修了後、電機メーカで半導体デバイスの研究・開発に10年間従事。在職中より執筆活動を開始、2000年より著述業に専念。主な守備範囲はコンピュータ全般。2004年、運動障害が発生(2007年に障害認定)したことから、社会保障・社会福祉に問題意識を向けはじめた。現在は電動車椅子を使用。東京23区西端近く、農園や竹やぶに囲まれた地域で、1匹の高齢猫と暮らす。日常雑記ブログはこちら


生活保護のリアル~私たちの明日は? みわよしこ

生活保護当事者の増加、不正受給の社会問題化などをきっかけに生活保護制度自体の見直しが本格化している。本連載では、生活保護という制度・その周辺の人々の素顔を紹介しながら、制度そのものの解説。生活保護と貧困と常に隣り合わせにある人々の「ありのまま」の姿を紹介してゆく。

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