6月30日に東海道新幹線で起きた火災事件。飛行機と同様、テロの標的となる可能性も指摘されているが、手荷物検査は非現実的で、安全対策は限られているというのが現状だ。

1時間前に駅に来るのか?
手荷物検査が非現実的な理由

 1964年の東海道新幹線開業以来、初の死者発生(車内での病死などを除く)となった今回の火災事件。東京都に住む男性がガソリンをかぶって焼身自殺し、巻き添えとなった乗客の女性1人も死亡した。以前から多くの専門家が新幹線でのテロの可能性を指摘していたが、改めて新幹線の安全対策に課題を突きつけられた格好だ。

手荷物検査はとうてい無理。JR各社や国土交通省の本音だ

 今回の火災事件では、車両の防火対策がしっかりしており、運転手や車掌の対応もスムーズだったことから、被害が最低限に抑えられたことは事実。しかし、危険物を簡単に持ち込めることが、証明されてしまった事件でもある。

「手荷物検査は新幹線の特徴である利便性を大きく損なう。そうなると、もはや新幹線ではなくなる」。7月6日に開いた記者会見で、柘植康英・JR東海社長はこう話し、手荷物検査は非現実的との見解を示した。8日に会見を開いたJR西日本の真鍋精志社長も、「ただちには、なかなか難しい」とした。

 新幹線は16両編成の場合、最大乗客数は1300人。平均乗車率は53%だ。事故列車にも約800人が乗車していた。飛行機よりも輸送人数ははるかに多い。飛行機ですら国内線なら30分程度前までに空港に到着しなければならないのに、新幹線で手荷物検査をするとなると、「1時間以上前に駅に来ていただくことになるのでは」(JR関係者)。抑止力のために、抜き打ち検査をすればいいとの指摘もあるが、やはり該当する乗客には早めに駅に来てもらわなければならない。

 運行間隔はピーク時で3分おきだ。5分前まで発券できるし、実は駅員に頼み込めば改札を通り抜け、車内で切符を買うことも可能。定時運行率も世界一だ。こうした利便性の高さが、観光客のみならず、多くのビジネスマンにも支持されている理由でもある。

 ユーロスターなど、海外の鉄道では手荷物検査を行っている例はあるが、ずば抜けた利便性の高さを誇る新幹線で果たして導入できるか。仮に導入すれば、運行本数が減るなどして利便性が下がるだけでなく、新幹線の黒字で在来線の赤字を補っているJR各社の収益構造も激変する。JR各社や国土交通省の本音は「無理」だろう。