東芝の原発事業に1000億円単位の減損リスクも140年の歴史を持つ、日本のリーディングカンパニーだけに、不正会計の記者会見には、400人近い記者が集まり、テレビ中継も行われた Photo:REUTERS/アフロ

第三者委員会による利益額の修正は1500億円に上ったが、今後は資産の面で、1000億円単位で減損リスクが待っている。中でも注目されているのが、原発事業だ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史、鈴木崇久、森川 潤)

 明らかに練り込まれた答弁だった。7月21日、不正会計をめぐる第三者委員会の報告書の提出を受けて、東芝が開いた記者会見。取締役8人の辞任が発表され、不正をめぐる質疑応答が続く中、ある企業の名前が出ると、場の空気が変わった。

「そちらについては、前田(恵造CFO)から説明いたします」

 受け身の答弁に終始していた東芝側が、ここだけは急に自発的に説明を始めたのだ。

「ウェスチングハウスのキャッシュフローならびに損益の8割以上が保守と燃料の交換であり、安定的な収益をきっちりと上げていると認識している。買収当時に比べると、営業利益は大幅に拡大している。懸念はございません」

 まるで、用意した文書を読み上げるように答えた前田氏の口ぶりは、いかにこの案件が東芝にとってセンシティブかを物語っていた。

 というのも、話題に上ったウェスチングハウス(WH)は、今回の問題が発覚して以来、利益水増しよりも、「一番のリスク」(重電メーカー関係者)として業界関係者がこぞって注目していたためだ。

 なぜならば、この案件は、東芝を最悪のシナリオへと導く“爆弾”となるリスクがあるからだ。

 WHは2006年、東芝が約42億ドル(当時の為替レートで約4800億円)もの大金をはたき、株式77%を取得して買収した世界最大の米原子炉プラントメーカーだ。この額は、相場の2倍を超えるといわれ、「高値つかみ」の批判が付いて回ったが、当時はまだ良かった。欧米で原子力発電所の重要性が再認識され、新規建設計画が浮上する「原子力ルネサンス」と呼ばれる時代だったからだ。

 WH買収を発表した当時の社長の西田厚聰氏は、そのとき約2000億円だった東芝の原子力事業が15年には約7000億円、20年には約9000億円に拡大すると喧伝した。09年には西田氏の後継社長である佐々木則夫氏がそれを上方修正。15年度までに新規プラント建設39基受注、売上高1兆円という目標をぶち上げた。