生活保護利用者の住まい探しは、高齢・障害・傷病・ひとり親といったハンディキャップに、さらに生活保護への偏見と知識不足が加わるため、困難かつ不利になりやすい。

この問題を解決したいという思いのもと、「大家さん」たちが動き始めた。

「生活保護の住」の悲劇をなくす?
大家さん向けガイドブック

「ちんたい協会」が提供しているガイドブック。生活保護利用者・高齢者・ひとり親・被災者・外国人など、特別なニーズやハンディキャップを持つ人々に対する住宅供給に取り組んでいる。この他に、空き家問題に関するガイドブックもある

 7月、アパート経営者、すなわち「大家さん」の団体である公益社団法人全国賃貸住宅経営者協会連合会(以下、ちんたい協会)による「生活保護受給者に民間賃貸住宅で安心した生活を送っていただくためのガイドブック」が公開された。このガイドブックは、5月に起こった川崎市の簡易宿泊所火災をきっかけとして、厚労省・国交省の協力と内閣府の後援のもとで作成された。

  生活保護の「住」を考えるとき、最初の、そして最大の問題点は、現在のところ「住むことが可能かどうか」である。ある不動産業者は、生活保護利用者の家賃滞納リスク・失踪リスクを、

「一般のお客さんでは100人に1人か2人くらいだけど、生活保護を利用しているお客さんでは100人に5人くらい」

 と語る(本連載 政策ウォッチ編・第69回)。

 さらに近年の生活保護利用者の増加の背景の一つは、高齢化の進行に伴う低年金・無年金高齢者の増加でもある。2015年5月、生活保護世帯のうち高齢者世帯の比率は、49.1%であった(厚労省・被保護者調査(2015年5月分概数))。

 人員ベースでは、生活保護利用者に占める65歳以上の比率は、2011年に53.3%となっている。高齢の生活保護利用者に対しては、家賃滞納リスク・失踪リスクに加え、高齢化に伴う認知症などの疾患がもたらすリスクや死亡リスクもある。アパートの経営者が個別に対応するのは困難であろう。そこに生活保護へのスティグマが加われば、生活保護利用者の「住」の選択肢はますます狭くなる。このことは、本来「住居」と考えられるべきではない劣悪な「住」を生活保護利用者たちにもたらす。そこに何らかの不運が重なれば、2015年5月に発生した川崎市の簡易宿泊所での火災に見られるように、生命まで奪われることにもなる(本連載第10回)。

 生活保護利用者が「普通のアパート」で容易に暮らせるようになれば、このような悲劇が減らせることは間違いないだろう。