電子部品商社・黒田電気など数社の大株主として浮上したC&Iホールディングス。同社はかつて様々な上場企業に大株主としてコーポレートガバナンス(企業統治)の適正化を迫ったM&Aコンサルティング(通称“村上ファンド”)の村上世彰さんが株主で、その長女・村上絢(むらかみ・あや)さんがCEOを務めていることで「村上ファンドが再び動き出した」と話題になっている。
一方、「ひふみ投信」を運用するレオス・キャピタルワークスの藤野英人さんは今年導入された「コーポレートガバナンス・コード」、昨年導入された「スチュワードシップ・コード」、「伊藤レポート」という“新・三本の矢”が日本株に今後、劇的な変化をもたらすという。
今後日本株はどう変わるのか。有力な投資家は今何を考えて、どう動くのか――。藤野英人さんと村上絢さんという今最も注目される2人の投資家に語りあっていただいた。
藤野英人さんと村上世彰さんの知られざる縁
藤野 実は村上さんのお父さんの世彰さんとは、昔から縁があるんです。村上さんのファンドによるニッポン放送株の売買に問題があったのかどうかの裁判の二審の際、私は村上さんの主張を一部サポートする資料を裁判所に提出しました。
一審の判決理由の中に「『ファンドなのだから、安ければ買うし、高ければ売る』という徹底した利益至上主義には慄然とする」という文言があり当時波紋を呼びましたが、「安く買って、高く売る」というのは投資だけでなく事業の大原則であり、それが否定されたら経済は成り立ちません。
本当は証券業協会や投資顧問業協会が業界として抗議するべきところでしたが、当時村上さんに加担するのはためらわれる雰囲気で皆が口を閉ざしていました。このままでは良くないと思い声を上げることにしました。
村上 あの当時父の側に立った発言をするのはすごく勇気がいることだったと思います。少しでも父を擁護する発言をしたらそれだけで悪者扱いされてしまう雰囲気でしたから。ですから、父の娘としてもとても感謝しています。
藤野 実はその頃、僕はまさに投信事業を始めようとしていたんですけど、日本では投信事業を始めるのにあまりにも障壁が多く、投資に対する世間の風当たりも強かったので、日本で始めるべきかどうか悩んでいたんです。その時村上さんがシンガポールに投資活動の拠点を移すという話を聞いていたので相談したんですが、「シンガポールの方が自由にできるし、シンガポールでやったほうがいい」と言われました。
そのあともいろいろお話をして、「君はどういう運用したいのか」、「日本をどう考えているのか」ということを聞かれたので、良い会社を探して投資を通じて応援したいとか、そのことで世の中を良くしたいというようなことを話しました。
その後、1日か2日後に村上さんからメールが来て、「いろいろ考えたけど、君は日本に残った方かいいんじゃないか。いばらの道だとは思うけど、君みたいな人が日本に残ることが必要な気もするし、君ならできるような気がする」という内容でした。
いろいろ経験した村上さんがそのように言ってくれるなら日本で頑張ってみようと思い、日本でひふみ投信を立ち上げたんです。そうした意味で村上さんは自分の背中を押してくれた人です。
そして、最近になって村上さんが問題提起していたコーポレートガバナンス(企業統治)に関して国が本格的に改革を起こし始めた。私はその改革について解説する『日本株は、バブルではない―――投資家が知っておくべき「伊藤レポート」の衝撃』という本をダイヤモンド社で出したところなのですが、そうしたところ村上さんの娘さんが本格的に日本株への投資活動を始めたという。これは何かの縁だと思い、ぜひお話したいと思いました。
村上 父は普段全くメールも打たない人なのですが、藤野さんに自分でメールをするというのは、本当に藤野さんに期待して、後を託したという強い気持ちだったのだと思います。どうぞよろしくお願いします。
レオス・キャピタルワークスCIO(最高運用責任者)。1966年、富山県生まれ。90年早稲田大学法学部を卒業。国内、外資系運用会社を経て2003年8月レオス・キャピタルワークスを創業、CIO(最高運用責任者)に就任(現任)。中小型・成長株の運用経験が長く、ファンドマネジャーとして豊富なキャリアを持つ。現在、運用している「ひふみ投信」は4年連続R&I優秀ファンド賞を受賞、さらに「ひふみ投信」「ひふみプラス」を合わせたひふみマザーファンドの運用総額は600億円を超えている(2015年6月現在)。ベンチャーキャピタリストであり、自身がファウンダーでもあるウォーターダイレクトを上場させ、現取締役。 また東証JPXアカデミーフェロー。明治大学商学部兼任講師。主な著書には『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)ほか多数。
村上 絢(むらかみ・あや)
1988年生まれ。父は村上世彰氏。慶応義塾大学卒業後、モルガン・スタンレーMUFG証券に勤務後、C&I Holdingsに入社。2015年、同社の代表取締役に就任。日本では珍しい「アクティビストファンド」の責任者として、企業価値を向上させるために企業の経営者と対話を心掛けている。また日本への寄付文化を根付かせたいという父の意思を継ぎ、支援を必要としている非営利活動団体やプロジェクトをつないでいくプラットフォーム、NPO法人 チャリティ・プラットフォームの代表理事に就任。
C&I Holdings http://c-i.bz/
チャリティープラットフォーム https://www.charity-platform.com/