『原子炉時限爆弾』で、福島第一原発事故を半年前に予言した、ノンフィクション作家の広瀬隆氏。
壮大な史実とデータで暴かれる戦後70年の不都合な真実を描いた『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』が第4刷となった。
本連載シリーズ記事も累計145万ページビューを突破し、大きな話題となっている。
このたび、新著で「タイムリミットはあと1年しかない」とおそるべき予言をした著者が、「8bitNews」主宰者で元NHKアナウンサーの堀潤氏と初対談。
放射能漏れ事故を起こし、9300億円の訴訟を起こされた三菱重工事件を米国現地で見た堀潤氏は、どう感じ、どんな行動に出たのか?
アメリカと比較し、日本の原発報道はなにが問題なのか。
川内原発再稼働で揺れる日本人の有益なモデルケースとなるかもしれない。
(構成:橋本淳司)
放射能漏れを起こした
三菱重工製の蒸気発生器
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。
堀 私が2012年にアメリカに留学していた当時、米カリフォルニア州の電力会社サザン・カリフォルニア・エジソン(SCE)が運営しているサンオノフレ原発が再稼働問題に揺れていました。
広瀬 2012年1月に運転中だった3号機で、交換したばかりの蒸気発生器の配管に異常な摩耗が起きて、放射性物質を含む水が漏れた。その後、定期点検中だった2号機でも同様の摩耗が見つかった。
サンオノフレ原発の蒸気発生器は三菱重工製でした。
川内原発の再稼働で、私が最もこわいと思っているプラントで、川内原発も同じ三菱重工製ですからね。
川内原発は再稼働した途端に、復水器で細管が破損しましたが、蒸気発生器の細管破損は、もっとこわいことです。くわしく聞かせてください。
堀 ぼくがカリフォルニアに行った2012年6月頃、夏場の電力需給を考えると再稼働が必要ということになりましたが、地元住民を中心に反対の声が上がりました。「津波対策も不十分、情報公開もされていない」と。
広瀬 アメリカでは、西部が地震と津波地帯ですからね。
堀 アメリカの底力を感じたのは、パブリック・ミーティングを見てからです。さまざまなステークホルダー(利害関係者)、市民、原発の労働者、電力会社、米原子力規制委員会(NRC)、地元自治体、有識者、メディアなどが集まって、「サンオノフレ原発をどうするか」という話し合いが、いろいろなところで開かれていました。
ディスカッションは意見ベースではなく、事実ベースで進みます。電力会社やメーカーはもちろん、環境団体や市民も、自分の感情や意見を排除して、事実と事実を突き合わせて、落としどころを探っていました。
しかもそれがインターネットですべて公開されています。日本にはパブリック・ミーティングのような話し合いの場はなく、一方的な官製の説明会でごまかすので、市民側は裁判にいかざるを得ない。ここが大きく違います。
広瀬 昔からアメリカのパブリック・ミーティングは制限時間がないので、いつも感心して見ていました。
堀 たしかにヒアリングが長いです。
広瀬 アメリカ人のよさはそこにある。怒鳴り合いもするけど、とにかく時間制限なしで徹底的に言い合う。これはアメリカだけではなくドイツもそうです。
堀 そう、それぞれが持っている情報を出し合いながら、合意点を探す作業を丁寧に行います。これが本当のディスカッションだと思います。
成熟した民主主義社会は、丁寧な議論ができる市民社会であるべきだし、情報を持っている機関は、公開することに心血を注いでいただきたい。
広瀬 日本にはパブリック・ミーティングのような話し合いの場がないし、事実は隠蔽されたままです。成熟した民主主義社会には程遠いのが現状です。