大学生の学力不足が叫ばれて久しいが、まさかこんな時代が来るとは!。
3月15日、4月に新設される埼玉県立吹上秋桜高校など3校と大東文化大学、ものつくり大学との間で教育連携の協定が結ばれた。協定の目玉は、「大学生が必要な教科・科目の基礎を高校(吹上秋桜高校)で聴講生として学習」することだ。驚いたことに、大学生が高校の教室で高校生と机を並べて学ぶというのである。「おそらく全国初の取り組みだろう」(埼玉県)。
いわゆる「高大連携」自体は珍しくないが、大学が高校生向けに講義を行なう形式が一般的。高校にとっては生徒の勉強に対するモチベーションアップ、大学にとっては将来の学生確保という点で利害が一致しているがゆえに多くの地域、学校で広まりつつあり、今回の高大連携も全国に飛び火するかもれない。
それだけ、大学生の学力不足が多くの大学にとって大きな悩みのタネになっている。少子化と大学定員の相変わらずの増加で大学はすでに全入時代となっている。そこで特に私立大学は推薦入学枠を大幅に増やして学生の「青田買い」に走っている。その数、2020年度で25万人。すでに入学者総数の6割を超えており、入試難易度の低い大学ほどこの比率は高い。推薦組の学生に受験勉強は必要なく、加えてゆとり教育によるカリキュラムの簡素化もあって、高卒程度の学力もない大学生が増えている。これでは、大学の授業がそもそも成り立たない。
とはいうものの、いったん入学を認めた以上、教育の責任は大学にある。そこで増えているのが大学入学後の「基礎教育やり直し」。「リメディアル教育」と呼ばれているもので、文部科学省の調査によると、すでに742大学のうち244校で実施されている。
ただし、リメディアル教育には手間がかかる。高校のカリキュラムを教えた経験が大学の教員にはないし、大教室での一方通行の授業では効果も薄い。そもそも、「理解が遅い学生を丁寧に教える根気は大学の教員にはまったくない」(関東の工科系私立大学)。
つまり、高校のやり直しは高校で学ぶのが一番なのだが、大学生にとっては耐えられないだろう。そこで、吹上秋桜高校である。昼夜開講、単位制の定時制高校で、通学は私服、クラスの縛りも弱く、大学生が参加しても違和感は少ない。最後の授業は夜8時過ぎ開始なので大学の授業の後に“登校”できる。単位認定を求めず授業を受けるだけならば大学側の負担は無料。高校側にしてみれば、「子どもからお年寄りまで幅広い年齢の人たちが校内を行き来する雰囲気を作りたい」(同校)ので、大学生の受け入れは大歓迎なのだ。
果たしてどれほどの大学生が集まるのか注目されるが、しかし、よく考えてみれば、大学生が高校で学び直すという現実はおかしくないか。教育制度、学校制度の根幹が明らかにどこかで間違っている。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 千野信浩)