2014年4月、母親と二人で生活保護を利用して生活している福島市の女子高校生が、得られた給付型奨学金を全額、自治体に収入認定され、返還するよう求められた。しかし2015年8月、厚労省は福島市の決定を不当とする裁決を下し、女子高校生はやっと、経済的な困難の少ない高校生活が送れるようになったところである。
今回と次回は、この問題についてレポートする。まず、出来事の背景は何であり、母親はどのような半生を送ってきたのだろうか?
奨学金は「収入」だから取り上げる!?
高1女子を待ち受けていた衝撃
2014年4月16日。福島県内の公立高校に進学して間もなかった長門アスカさん(仮名・15歳)は、いつもと同じように学校生活を送り、帰途についた。住まいである福島市内の県営住宅に帰宅すると、母親・ミサトさん(仮名・37歳)がただならぬ表情で、
「奨学金、全部、取り上げられちゃうって!」
とアスカさんに告げた。「取り上げられる」は、正確に言えば「収入認定」という意味である。
小学6年のときから、母親とともに生活保護に支えられて暮らしているアスカさんは、中学3年生のとき、新高1を対象とした給付型奨学金の募集に応募しており、うち2件で採用となっていた。その2件で得られる年間合計17万円を、全額、自分の学業に用いることはできなくなってしまったのである。
取材当日、私の目の前にいた細身のアスカさんは、知的な雰囲気を漂わせ、シャープなイメージの衣服に身を包んでいた。アスカさんは、その時、
「は? なんなの?」
と叫んだところまでは覚えているそうだ。
「家に帰って、母からそのことを聞いた時に、理解できなくて……絶望というか、怒りがこみあげてきて、わめき散らしてました。その時の記憶は、それくらいです」(アスカさん)
今回は、アスカさんが生活保護利用の母子世帯の子どもとして直面した問題を理解するため、最初の足がかりとして、ミサトさんの半生に焦点をあてて紹介することとしたい。
まず、今回の問題の背景には、どのような事情があったのだろうか?