資金繰りが苦しくなったワタミが主力3事業の一つ、介護事業を売却することになった。売却金200億円で当面の資金繰りはしのげそう。とはいえ、本業の居酒屋事業は回復の兆しが一向に見えない中で、経営危機を脱したとは言い難い。(「週刊ダイヤモンド」編集部 須賀彩子)

介護事業売却でも拭えないワタミ存続の危機主力の居酒屋事業の既存店売上高は、今年度に入った4月以降も90%台前半と低水準のまま推移している Photo by Ayako Suga

 今春、ワタミはメインバンクと膝詰めで、ぎりぎりの交渉を行っていた。このままでは融資を引き揚げざるを得なくなる──。そう迫られていたからだ。

 ワタミは、居酒屋事業の不振により、2期連続で巨額の最終損失を計上。2015年度に入った4月以降も赤字を解消できず、自己資本比率は6.2%と、崖っぷちに追い込まれていた。

 そうした状態で融資を引き揚げられてしまえば一巻の終わり。対するメインバンクも巨額の貸し倒れが発生するため、頭を悩ませていたのだ。

 というのも、ワタミの主要事業の一つである介護事業に、条件に抵触すれば融資が引き揚げられる「財務制限条項」が設定されていたからだ。

 介護施設では、償却前に入居者が死亡した場合、入居金を返却しなければならないため、その保全が求められている。そこで「純資産額が12年3月期末(293億円)の75%以上を維持」という条件が課せられていたのだ。

 しかし、赤字続きのワタミは資産を食いつぶし、この条項に抵触してしまう。慌てたワタミと銀行は交渉を続け、最終的に「純資産額が15年3月期末の100%を維持」に条項を変更するという“禁じ手”をひねり出して、事なきを得る。

 ところが、これで一件落着とはならなかった。「経常損益が2期連続で赤字にならない」という、もう一つの財務制限条項があったからだ。

 前期はすでに経常赤字で、今期こそ黒字が必須なのだが、このハードルが極めて高い。

 15年4~6月期の決算を基に、アナリストらの協力を得て今期の決算を試算してみると、まず家庭などに弁当を配達する宅食事業は15億円の黒字が見込める。

 しかし、海外事業で10億円、介護事業で10億円の赤字になりそうで、本部経費を差し引くと、居酒屋事業で25億円分の黒字を稼ぐ必要がある。

 ところが、4~8月の既存店売上高は平均91~92%の水準で推移しており、黒字さえおぼつかないのが現実。ワタミは、販売促進や店舗配送の見直しといったコスト削減策で35億円を捻出する計画を打ち出すが、できるのならとうにやっているはずで、いかにも厳しいと言わざるを得ない。

 そこで持ち上がったのが、介護事業の売却だ。