「あれも大事、これも大事」と悩むのではなく、「何が本質なのか?」を考え抜く。そして、本当に大切な1%に100%集中する。シンプルに考えなければ、何も成し遂げることはできない――。LINE(株)CEO退任後、ゼロから新事業「C CHANNEL」を立ち上げた森川亮氏は、何を考え、何をしてきたのか?本連載では、待望の初著作『シンプルに考える』(ダイヤモンド社)から、森川氏の仕事術のエッセンスをご紹介します。
その情報共有は、「仕事」と言えるのか?
情報は社内で共有しなければならない──。
これは、今では常識とされていることです。会社や部門ごとの重点課題、目標や実績などを社内で共有する仕組みを整備すべき。それが、経営の責務だと考えられているのです。
僕も、かつては、そう思っていました。だから、定期的に全社のリーダーを集めて、情報共有のための会議を開催していました。ところが、あるとき、結果を出し続けている優秀なリーダーからこう言われました。
「この時間がムダだから、仕事をしてもいいですか?」
ハッとさせられました。たしかに、この会議は、ただただ伝達と報告に時間を費やすだけ。何か、ユーザーの価値に結びつくものを生み出しているわけではありません。だったら、価値を生み出す仕事に集中したほうがいい。まったくもって正論だったのです。
だから、僕はこの会議をやめてしまいました。
会社や部門ごとの重点課題、目標や実績は社内のデータベースで公開しておけば済む話です。職責のレイヤーごとに閲覧可能な情報に制限はかけますが、基本的には見たい人は勝手に見に行けばいい。そう整理したのです。
それで何か問題が起きたか?
まったく起きませんでした。
むしろ、仕事に集中できる状況が生み出されたのです。
余計な情報を知っても、余計なことを考えるだけ
今では、僕は表面的、形式的な情報共有は必要ないと考えています。
たとえば、部署ごとの売上を共有すること。これに、どんな意味があるのでしょうか? もしも、それを知って成果が上がるのであれば、やればいいと思います。しかし、そんなわけがない。ユーザーには何の関係もないのだから当然のことです。だったら、そんなことは気にせず、目の前の仕事に集中したほうがいいに決まっています。
むしろ、こうした情報を共有することで、余計なことを気にし始める社員が現れます。隣のチームの売上はいくら? 自分のチームはいくら? あのチームはどのくらいの売上を上げて、どのくらいのボーナスをもらってるんだろう? そんな余計なことが、どんどん気になってくる。そういうタイプの社員で結果を出す人はほとんどいません。結果を出すのは仕事に集中する人。彼らは、そもそも他部門の数字に興味がないのです。
もしかすると、こんな疑問をもつ方もいらっしゃるかもしれません。
「他部門の売上を知ることで、社内で競争意識が生まれるのではないか?」
たしかに、隣のチームよりも売上を上げようといった競争意識によって、社内が活性化することはありうると思います。しかし、それは本質的でしょうか? ユーザーのニーズに応えるのが仕事です。社内で競争するのが仕事ではありません。
むしろ、売上競争に陥った結果、ユーザー・ファーストの意識が抜け落ちて、売上優先主義がはびこることのほうが危険だと思います。社員同士が健全な競争意識をもつことまでは否定しませんが、経営がわざわざ社内競争を生み出すことに意味があるとは思えないのです。
ビジネスは、もっとシンプルです。
いいサービスを出していれば、いつか結果はよくなるはず──。
それを信じて、ユーザーに価値を提供することだけに集中する。それが、成功への最短距離。むしろ、会社が余計な情報を出すことで、社員が目の前の仕事に集中できない状況をつくり出すことのほうが問題。だから、情報共有はいらないのです。