シリコンバレーから本社に出張する社員の多くは、会社の先行きに強い不安感と焦燥感を抱いて帰ってくる。
シリコンバレーであるから圧倒的にエレクトロニクス業界の社員が多い。どこの会社も経費削減はぎりぎりのところまでやっている。それでも利益が出ない。このまま行くと会社がどうなってしまうのか。かといって個人ではどうしようもできない。何とも言えない虚しさが漂うという。
なぜこうなってしまったのか? それは日本の伝統的な経営方式がグローバル化に対応できずに、壁にぶつかっているからではないだろうか。
それだけではない。今まで環境の変化に応じた自己変革を怠ってきた結果、新しい成長戦略も見いだせず、ただズルズルと自己資本を食いつぶす危険な経営方式になっているように思う。それにも拘わらず多くの日本の大企業では、従来手法で業績の回復を図れると信じている。だが、本当にうまく行くのだろうか。
かつて日本的経営が絶賛されたことがある。70年代にハーバード大学教授であったエズラ・ボーゲルは書籍「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を書き、日本的経営を褒めあげた。当時米国系コンサルティング会社の社長であったアベグレン氏も同様に褒めあげた。この時期は日本企業が世界に躍進し、米国企業を苦しませた時期であった。米国人が競争相手の日本企業を褒めあげたのである。
だがMITのある教授は当時からこれに異論を唱えていた。「日本的な経営モデルが持続可能なのは、経済が右上がりの時だけである」と見透かしていた。企業が拡大を続けなければ、終身雇用を前提に雇用した社員を養えない。年功序列もいったん経済が右下がりに転じると、運用が難しくなる制度でもあった。今まさにそういう事態が起きている。
80年代の後半に日本企業に負け続けた米国企業が採った対応策は、成功した日本的モデルを真似することではなかった。むしろ逆方向の施策だった。それはレイオフの導入だった。
レイオフが導入される以前のアメリカ企業では本人が転職を希望しない限り、リタイアするまで同一企業に働き続けるのはそんなに珍しいことではなかった。事実、筆者の周りにはリタイアまで同じ企業に勤めあげたアメリカ人が何人もいる。