TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の大筋合意が成った。これから各国は議会での承認プロセスに入り、全加盟国は2年以内に国内手続きを終了することが想定されている。
もし全加盟国が手続きを終えられない場合は、GDPの合計が85%以上を占める6ヵ国以上が手続きを終了していれば、発効することが取り決められているようである。すなわち、日米両国が議会承認を得ない限り、協定は発効しないこととなる。
交渉は2008年の米国の参加表明以来、7年を超える歳月を要したが、各国での議会承認は、同じように困難なプロセスとなるのではなかろうか。特に大統領選挙を約1年後に控える米国の帰趨が致命的に重要となる。本稿では米国の議会承認の見通しについて考えるが、その前に、TPPのアジア太平洋地域における意味合いをあらためて見直してみよう。
これまでにない先進的な貿易ルール
自由主義市場経済の体制が支配的に
まずTPPは自由貿易協定であるが、これまで日本が結んだ自由貿易協定に比べ、関税撤廃率は約95%と高い。自由貿易協定が域内の貿易を拡大させ、各国が国際分業に従って産業の効率化を進める結果となるのは、既に検証されていることである。日本の産業にとっても間違いなく貿易促進効果を持ち、経済成長をかさ上げする。
さらに重要なのは、関税だけではなく投資、知的財産権、政府調達、国有企業など30項目に及ぶ先進的なルールを定めている点である。筆者も数多くの二国間、多国間での貿易交渉に参画したが、これほど多岐にわたるルールを盛り込んだ協定交渉が妥結されたのは驚きである。TPPはアジア太平洋における貿易の先進的なルールの先駆的存在となる。
TPPで合意されたルールは、貿易のルールとしてだけではなく、競争を刺激し、投資や知的財産権の保護、国有企業の従うべき規律など、参加国の経済運営自体に大きな影響を有する。TPPには、今後アジアの多くの諸国が参加の意図を表明していくと見込まれるが、アジア太平洋地域の経済秩序において、国家資本主義と言われるような国の介入の強い経済ではなく、自由主義市場経済の体制が支配的となることが期待される。