累計200万部を突破し、NHKでドラマ化もされた人気経済小説の『ハゲタカ』。いよいよ週刊ダイヤモンド11月7日号(一部地域をのぞき2日発売)より、待望のシリーズ5『シンドローム』の連載が始まる。待望の連載に備えて、ここでは主要人物を紹介することで、シリーズを振り返ってみたい。
鷲津政彦 Masahiko Washizu
ジャズピアニストを目指すも挫折、米国最大の買収ファンドKKLで辣腕を振るう。その後、独立しサムライ・キャピタルを立ち上げ、米国最大の軍産ファンドや巨大メーカー、中国の国家ファンドなどを相手に買収合戦を繰り広げる。不可能と思える買収も奇策を巡らせ成し遂げ、いつしか神鷲(ゴールデンイーグル)という異名を取るようになった
「身長は170センチ足らずで、痩身、いや痩せぎすという方が正しい。これといって特徴のない目鼻立ちの小さな顔は、街ですれ違っても気づかないほど印象が薄かった。身につけているスーツも仕立ては良さそうだったが、なぜか安っぽく見える」
これは、ハゲタカシリーズ作中での、主人公・鷲津政彦の外見についての表現だ。一見、どこにでもいるような風采の上がらない男……。しかし、この見掛けにだまされてはいけない。
鷲津は、ジャズピアニストを目指して渡米するも挫折し、その後、米国最大の買収ファンドで辣腕を振るい、いつしか「神鷲(ゴールデンイーグル)」という異名を取るようになった男だ。「日本を買い叩く」と宣言し、買収合戦が始まるや、熾烈な戦いをまるで楽しむかのように挑んでいく。
リン・ハットフォード Lynn Hutford
公私にわたる鷲津のパートナー。ゴールドバーグ・コールズの副社長まで上り詰めたが退職し、サムライ・キャピタルに。揺るぎない強さと鷲津への深い愛情を持つサムライ・キャピタル
堀 嘉彦 Yoshihiko Hori
日本銀行で長年国際的な金融交渉に従事。現在はサムライ・キャピタルに。日本のみならず世界の政財界に人脈を持ち、文化教養にも造詣が深い。鷲津が人生の師と仰ぐ存在
鷲津のライバル芝野に加えて
北村や貴子も登場
鷲津が運営する「サムライ・キャピタル」は、投資ファンドの一つだ。投資ファンドとは、出資者からカネを集めて運用し、運用に成功すれば元本に利益を加えて出資者に戻す組織のこと。金融商品に投資するファンドもあるが、企業の株式を買収して経営に関与する「買収ファンド」もある。
買収ファンドは死に体となった企業を買収し、短期間で経営に大ナタを振るい再生する。その後に、企業を転売して利益を得るという手法から、“ハゲタカファンド”と批判されることもある。
サムライ・キャピタルも買収ファンドだが、鷲津は、そうした批判を気にもせず、買収を阻むライバルと対峙。公私共にパートナーであるリン・ハットフォードや、人生の師と仰ぐ堀嘉彦の力を借りながら、あらゆる金融手法や情報戦を駆使して、不可能ともいえる買収を次々と成功させてきたのだ。
買収対象となる企業は、国内の繊維や電機といった企業から、自動車メーカー、米国の巨大メーカーなど、作品を追うごとに、スケールが大きくなっている。
その鷲津と対照的な存在が、名門三葉銀行でエリートコースを歩んだ芝野健夫だ。破天荒でニヒルな鷲津と異なり、実直な性格で周囲を魅了するタイプだ。
芝野健夫 Takeo Shibano
名門三葉銀行でエリートコースを歩む。不良債権処理に際し、多くの大企業の経営再生に参加し、そこで鷲津と対立することになる。三葉銀行を退社後は、中堅スーパーや、総合電機メーカーの再生などに腕を振るう。その後は、大阪の町工場マジテックの再生も手掛けた。ニヒルで強引な鷲津や、腹黒い飯島とは対照的に実直で義理堅い性格
三葉銀行退社後は、事業再生のプロとして大企業の経営に参画するが、ライバルや時にはタッグを組む相手として、常に鷲津の影が周囲にちらついている。
数々の大企業を再建させた芝野だが、その後は恩人である経営者が急逝したことをきっかけに、零細町工場「マジテック」の再生に奮闘する。義理堅い男なのだ。新連載『シンドローム』でも、芝野は重要な役割を担いそうだ。
他にも、『グリード』に登場した新聞記者の北村悠一や、1作目の『ハゲタカ』で外資系企業に翻弄された老舗ホテルオーナーの娘・松平貴子も久々に登場する。
ぜひ、連載開始前に、シリーズを読み返すことをお勧めしたい。
一級の娯楽作品の裏に
痛烈なメッセージが
飯島亮介 Ryosuke Iijima
三葉銀行では芝野健夫の上司。三葉銀行専務まで上り詰め、UTB銀行となった後は、頭取となる。その後は、ニッポン・ルネッサンス機構総裁となるなど、日本の金融界に大きな影響力を持つ。強引な手法で相手を追い詰め、鷲津や芝野と敵対することもあるが、利害が一致すればタッグを組むこともある
ハゲタカシリーズに登場する企業や人物は全て架空のものだ。しかし、作者の真山仁氏は徹底した取材を重ねる。その結果、リアリティが追求され、作品のスリルも増す。それが、シリーズ累計200万部という読者の支持につながっているのだ。
エンターテインメントとしても一級品なのだが、実はハゲタカシリーズには、真山氏が訴えたい強烈なメッセージが隠されている。
シリーズ1作目の舞台は1997年から2000年代だ。当時は、バブル崩壊のツケを先延ばしにした結果、問題が噴出していた。
国内の金融業界では再編が進み、大手証券会社は破綻、また自動車メーカーや大手流通も海外企業に買収されたり、経営破綻に追い込まれるなどしていたころだ。
松平貴子 Takako Matsudaira
日光の名門、ミカドホテルを経営する松平家の長女として生まれる。経営悪化したミカドホテルの再建を担うが資金繰りが難航、外資系のリゾートグループ「リゾルテ・ドゥ・ビーナス」に株を買い占められ「雇われ支配人」となってしまう。その後も、ビーナスグループの争いに巻き込まれるなど、外資系企業やファンドの思惑に翻弄される中で再建のかじを取り続ける
そこに登場したのが、外資系金融機関や新興ファンドであり、買収合戦を繰り広げた。ところが、「何とかなる」と問題の処理を先延ばしにしてきたにもかかわらず、産業界、いや日本人は買収に名乗りを上げる外資系企業を“ハゲタカ”と悪玉扱いしたのだった。
こうした日本人の甘さ、身勝手さを思い知らせてくれるのが、ハゲタカシリーズと鷲津政彦なのだ。
今回、ハゲタカシリーズの第5弾として、真山氏がテーマに選んだのは「東日本大震災」だ。
発生4年後の今も、問題は山積している。東京電力福島第1原子力発電所の事故の処理は予断を許さないし、それに掛かる費用は莫大になることが予想され、負担は将来にわたり重くのしかかる。先送りするツケはどれくらいになり、誰が支払うのだろうか。
新連載で鷲津が明らかにし、われわれに突き付ける問題は、これまで以上に重いものとなりそうだ。