2004年の第1作から既刊計4作で累計195万部超を記録している大ヒット小説『ハゲタカ』シリーズ。最新刊『ハゲタカ外伝スパイラル』は多くの点でこれまでのシリーズとはひと味もふた味も違う作品となっています。作者の真山仁氏に作品に込めた思いを聞きました。(本インタビューは週刊ダイヤモンド7月4日号初出)

──芝野健夫が町工場マジテックを再生する……。連載時に登場したそのエピソードが、ハゲタカ本編の単行本『グリード』には収録されていませんでした。今回、芝野の奮闘を新たに独立した外伝としたのはなぜでしょうか。

 連載にあたり、東京都大田区や愛知県などの町工場を幾つも取材しました。取材では、町工場が日本の製造業を支えていると実感した一方で、経営がかなり苦しいこともあらためて認識しました。

 そのような町工場、中小企業をどうすれば再生できるのかを考えると、とても簡単には結論が出せなかったのです。

 町工場は優秀な職人を抱えていて、モノを製造する能力は高い。でも、何をどう作るかを指示してくれる人がいなければ、うまく回らない。

 営業と開発の両方ができるような優秀な経営者がいる町工場は生き残っていくことができるとは思いますが、でも、そういう経営者は少ない。世代交代などで社長が代わると、途端に立ち行かなくなるほど、属人的な経営なのです。

 作中でも、マジテックの経営者である藤村登喜男が亡くなっている。では、どう乗り切るのか。その答えは中途半端に出したくなかったのです。だからこそ、独立した外伝としてやってみようと思いました。

 小説家として物語を途中で終わらせるのは、読者に対して無責任と感じていました。芝野のファンも多いでしょうから。ですので、連載終了後も取材を続け、考え続けました。

 マジテックの再生にケリをつけるというのは、自分にケリをつけるためという目的もあったのです。

──『ハゲタカ』シリーズは回を重ねるごとに買収のテーマとなる企業が国際的になり、かつ、巨大になっていった印象があります。それが、一気に町工場へと、規模が縮小しました。 

 確かに企業規模は100兆円と大きくなっていました。今回、初めて油にまみれた町工場を主題としましたが、そういう会社こそ、社員と会社が運命共同体だし、経営者の財産を会社に貸しているケースすら多く一心同体なのです。会社が自分たちのものじゃなくなることの影響は、大企業よりもはるかに大きい。

 今作は外伝ではありますが、ハゲタカというシリーズに大中小の企業が並び、ようやくパッケージとしてそろったなと思っています。

──これまでのハゲタカシリーズとの違いという意味では、物語が進んでいく上で、“技術”がかなり重要な要素となっていますね。

 2008年という設定は現在から7年も前です。このタイムラグを使えないかなと考えました。ハゲタカシリーズは歴史小説でもあると思っています。常に、歴史に縛られている。

 そこで、15年の現在では多くの人がすごいと思っていても、08年時点ではあまり知られていなかったものは何か……という視点で探すと、3Dプリンタに行き着いたのです。

 ものづくりは、人を幸せにするのが理想。イデオロギー的なものづくりを取り上げるのではなく、誰かを幸せにする、不具合や不自由を軽減するようなものを題材としたかった。3Dプリンタなら、それに当てはまるだろうと。